◎夢の話 第589夜 神社
3日の朝6時に観た夢です。
「おい。良いものを見つけたぞ」
悪友のKからの電話だ。
Kは「すぐにでも会いたい」と言って来た。
暇だったので、ひとまず会うことにする。
早速、※袋の中華料理屋で、Kと会った。
「俺とお前とで、山を買わないか」
「唐突に何だよ」
「Y県の山の中に、ひと山2百万で売りに出ているところがある。それを俺とお前で買うんだよ」
「今どき、山林を買ったところで、何が出来る?」
すると、Kはへらへらと笑って答えた。
「そこにはだな。古い神社がついている」
オレは腹の底からあきれた。
「それじゃあ、余計にダメじゃん。扱いが面倒だ」
「いや。とっくの昔に登録を取り下げてある。ご神体は20年前に返したそうだし、荒れ果てた社殿だけが残っている」
「おい。話がどんどんダメになって行くじゃねえか」
しかし、Kは両目を輝かせていた。
「お前。聞いて驚くな。そこは合角というところにあるんだよ」
「がっかく?それが何?」
「この漢字では『ごうかく』と読むことの方が多い。秩父にも同じ地名があるが、そっちの読みは『ごうかく』だよ。漢字で書けば分からない」
「だから、それが何?」
「続きがあるんだよ。その下の字が『うぶすめかわ』。産物の産に女、川だ。縁起が良さそうだろ」
「ははあ。神社でひと商売打つってこと?」
「そう。そこら一帯が産女川だから、さらに小字を付けるわけだ」
「勝手に?」
「大丈夫だよ。他に人は住んでいないわけだし、通称名でも通用する。合角の次が産女川で、その次が繁盛でどうだ。神社で祈願すること3つが入っていらあ」
やっぱりだ。Kが考えそうな話だな。
「ダメだよ。そりゃ」
「どうして」
「とりあえず借地にしとけ。期間は十年間で、もしこちらが希望すれば、さらに十年間そのままの値段で更新できる。改装費できっと1千万はかかるだろうから、なるべく節約しなけりゃ」
早速、やってみることにした。
それまで、ほったらかしになっていた山だから、地権者を探すのだって大変だ。
ここの地権者は、もはや他の県に出て行っていたし、もうかなりの高齢だった。
地主が「買ってくれるなら売る」と言う話をひとまず保留にして、オレたちはとりあえず借地契約を結んだ。
すぐに社殿に手を入れて、外観を綺麗にすると、それなりの神社には見える。
「まずはかたちで、法人登録はその後だ」
雑草を刈り払い、駐車場を整理して、人が来られるようにした。
次はご神体だが、こちらはテキトーだ。大体、観光施設なんだし、神主と巫女がいればそれなりに見える。祝詞もテキトーに決めればよいが、正規の祝詞だとその道の者にばれてしまうので、文言も作ることにした。
「ま、お経とか聖書を逆さまに読むってのでOKだろ」
人はお経や祝詞が、「よく分からない」ことに慣れている。だから、もにゃもにゃとそれらしいことを言っていればよい。
神主には、Kやオレが化けるとして、あとは巫女だ。
「佐伯嬢はどうだろう」
佐伯笑子は、Kやオレの同級生で、焼き物を作っている。
住居と何がしかの給料を与えて、工房を見繕ってやれば、きっとやってくれる。
「気持ち悪いくらいエキゾチックだから、あのひとに巫女は似合うね」
早速、佐伯女史に連絡をした。
佐伯女史との契約で、巫女は正午から夕方までの約束だ。正味5時間と言ったところ。
これで佐伯女史は他の時間を自分の工房で過ごすことが出来る。
段取りはこうだ。
「開運」「合格」「安産」「出世」といった幟を立てて、この神社に参拝客が溢れている映像をネットで流す。皆ニコニコして、お札を折って、奉納箱に入れていく。
願い事は札を折り紙みたいにしないと叶えられないのだ。
どこの神社で、どういう神様か、などは宣伝しない。
地名表示がちらっと映るだけ。あとは勝手に、ネットが拡大してくれる。
この世には悩み事が溢れている。現実に、神社に参拝客が殺到していれば、そこに行くだけで、悩みが解消されると勘違いする者がいる。
さらには、そこに来たというだけで、実際に悩み事が消えてしまう人も幾らかいる。
まあ、人の心の持ちようがもたらす作用だろう。もちろん、そこの神社やお寺の持つご利益やご功徳ではない。
ネットに流し始めてから、数週間後には反応が現れた。
オレたちはエキストラを使った映像を流したのだが、説明をしなかったのが幸いして、「これは何?」という世間の注目を集めたのだ。
巫女役の佐伯女史には、歌舞伎みたいな隈取をさせたから、もともと薄気味悪かった風貌が余計に目立った。
あっという間に、日に1千人、3千人と参拝客が増えて行く。
ひとつ数千円のお守りが飛ぶように売れる。原価は150円だ。
「これじゃあ、土産物屋だっているよな」
「まあそうだ」
「神様さまさまだ。さまが3回だ」
入り口の階段に座り、Kと茶を飲んでいたら、上の神殿のほうから声が聞こえて来た。
女の声だった。
今は夕方の7時で、佐伯女史は帰った筈だ。
「ありゃ。今日は残業してくれているのかな」
「まさか。この時間はねえだろ」
「じゃあ、誰だよ」
オレはKと二人で階段を駆け上った。
神殿の扉を開くと、ご神体もどきの方に向かって、女が座っていた。
オレたちに背中を向けていたから、最初にオレが声を掛けた。
「ねえ。まだ残っていたのかい」
ゆっくりと、巫女が振り返った。
その顔を見た瞬間、オレとKは固まってしまった。
巫女は佐伯女史ではなく、オレたちの知らぬ女だった。
「女」?
そうではない。女の形をしているが、人間ではない。
そこに座っていたのは、化け物だった。
この世の者でないことが、一瞥で分かる。
その化け物が口を開いた。
「呼び出してくれて有難う」
Kが答える。
「え。あんたなんか誰も呼んじゃいないよ」
「呪文を唱えたではないか」
「呪文って?」
「祝詞を逆さまに唱えただろ。それが降霊の呪いだ」
いけね。そいつはオレが犯人だ。
オレはふざけて、祝詞を末尾から逆さまに読んでいたのだ。
「あなたさまはどのような神なのですか」
相手が見るもおぞましい化け物だけに、自然に丁寧な口調になってしまう。
「神。わたしはそんなものではない」
「ではどなたですか」
「ここは産女川だ。それで分かりそうなものだが」
「分かりませんが」
「では、ネットで検索してみろ」
随分、今風な化け物だ。スマホのことも知っているらしい。
スマホを検索すると、最初に「うぶめ」が出て来た。
「ありゃ。産女って妖怪のことなのか。俺はまた、妊婦のことかと思っていた」
「半分は当たっている。産女は死んだ妊婦が化けたものだもの」
そんなの、今どきの人間が知るわけが無い。
オレもKも、ホラー系には興味が無かったわけだし。
ここでオレたちは顔を見合わせた。
「なるほど。ここの神社が閉まったのは、コイツのせいだったか」
「でも、妖怪とはいえ、コイツは閉じ込められていたようだから、オレたちに感謝しこそすれ、悪さを働いたりはせんだろ」
オレはそれを、女に聞こえるような声の高さで口にした。
すると、すかさず化け物が答える。
「わたしはお前たちのおかげで、この世に戻って来ることが出来た。その礼に・・・」
どうやら、状況はそんなに悪くなさそうだ。
しかし、それはオレの早とちりだった。
女は一瞬だけ思案したようだったが、すぐに言葉を続けた。
「わたしを目覚めさせてくれた礼に、お前たちのことは、苦しまずに死なせてやろう」
妖怪がその言葉を言い終わると、すかさずオレの首がきゅうっと締まった。
ここで覚醒。
やや無理があるのですが、そこは夢です。