◎夢の話 第626夜 盗賊の赤虎が鬼女に食われそうになる話
19日の午前2時頃から連続して観た夢の2つ目です。
盗賊の赤虎が役人の追手から逃れるために、山中に分け入った。
馬一頭がかろうじて通れるほどの山道を進むと、切り立った峡谷に入る。
崖の中腹を崩して拵えた道はいよいよ細くなって行くが、しかし、先に進むしか逃れる術はない。
赤虎は馬を下り、手綱を引いて、難所をやり過ごそうとした。
道幅は僅かに人の腕の長さほどである。
やっとのことで馬を導くと、ようやく少し道が広くなった。
ほっとしたのか、周囲を見回す余裕が出来た。
向かい側を向くと、峡谷の対面の崖までは、およそ40間ほどの距離である。
そちらの側にも、こちらと同じような細道が見えている。
ここで視線を対岸の先に向けると、少し先に開けた場所が見える。四十間四方の広さであるが、そこに人が五六人いた。
「こんな奥地で、しかも崖の道に出来た平地だ。いったい何をしているのだろう」
赤虎は不審に思いながら、こちら側の道を進んだ。
平地に最も近い位置まで行き、仔細を眺めると、そこにいたのは五六人ほどの女であった。
女たちは一様に薄絹の単衣を身に着け、ある者は楽器を奏で、ある者は歌い、残りの者はその歌に合わせて踊りを踊っていた。
「美しい。斯様な若くて美しい女たちが、なぜこんな所で踊っているのだろう」
しかし、余りの美しさに、赤虎は足を止め、女たちを見入った。
女たちは薄衣一枚の下に何も身につけておらず、たわわな胸やむっちりとした腰が揺れ動いているのがよく見える。
すると、女たちの一人が対岸の赤虎に気付いた。
その女はにっこりと笑うと、崖の端に歩み寄る。
「貴方さまも、こちらに来て、私たちと踊りませぬか」
着物の襟の間から、真っ白な胸元が覗いている。
赤虎の心がぐらぐらと揺れる。
「こちらには食べ物もござります。どうぞこちらにいらして、お食べになっってください。ほら、あちらに橋がござりますので、それを渡ればこちらに来られます」
女が指差す先を見ると、確かにそこには小さな吊り橋が見えていた。
「あそこを渡れば良いのだな」
赤虎が返事をすると、女はにっと笑って頷いた。
橋は五十間ほど先にある。
赤虎は馬を引きながら、その橋に向かった。
しかし、その途中で、赤虎は今とまったく同じ経験をした時のことを思い出した。
「あの時は・・・」
赤虎は思わぬ夕立に会い、寂れた宿屋に入った。
ひとしきり仮眠を取り、目を覚ますと、外で大勢が盆の踊りを踊っていた。
その中の女子が盛んに「仲間に入れ」と誘って来たのだが、それは物の怪の類で、赤虎のことを襲って来た。
赤虎は命からがらその場から逃れたのだった。
「同じ過ちを二度するほど、俺は愚かではない」
少し道が広くなったので、赤虎は馬に跨り、急ぎその場から離れた。
半丁ほど進んだところで、赤虎が後ろを振り返ると、あの橋は途中で底板が落ちて無くなっていた。
「橋を渡ったら、どうなっていたことか」
おそらく崖の下には、大勢の男たちが落ちて死んでいるのだろう。
何百もの屍が重なっているに違いない。
この後、赤虎は「その場にそぐわぬ者が居る場所には、よくよく気をつけよ」と、幾度となくこの話を持ち出して、男たちを戒めたということだ。
ここで覚醒。