日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第625夜 佇む女

◎夢の話 第625夜 佇む女
 19日の午前2時頃から連続して観た夢のひとつです。

 滝見物に出掛け、帰途に着こうとしたが、まだ物足りない。
 そこで、帰り道とは逆方向の山越えの迂回路を進むことにした。
 こうすると、少し奥にある湖を一回り見物することが出来る。
 道路の片側は山の斜面で、反対側は崖。下は深い谷底だから落ちれば大変だ。
 車を発進させた後、数分で俺は後悔した。
 道が狭く、車一台が通るのもやっとのスペースしかなくなったのだ。
「これでは対向車が来たら、お見合いをしてしまう」
 すれ違えるほどの道幅がないのだ。
 ところが、その心配は杞憂だった。
 道はいよいよ狭くなり、車の車軸幅とほとんど同じくらいになったが、対向車などまったく来なかった。
 「なるほど。ここを通る車などほとんどないから、すれ違うための道幅など考えなくても良いわけだ」
 慣れて来ると平気になるもので、前が見えないことも気にならなくなった。
 自然とアクセルを踏む力が強くなる。

 ちょうど気を許した頃だ。
 右カーブを曲がると、山側の藪の前に人がひとり立っていた。
 「おお。危ない」
 俺はその人にぶつからないように、ハンドルを少し左に切った。
 運転席の窓のすぐ外側に、その人の姿が見える。
 道側に背中を向けて立っていたのは、赤いワンピースを着た女だった。
 髪は長いのだろうが、首の両脇から前に垂らしているらしく、うなじが見えている。
 ほっそりとした背中だから、おそらく二十六七くらいだろう。
 「なんでこんな山の中に」
 不審に思ったが、すぐにこの道の入り口に「ハイキングコース」の看板があったことを思い出した。
 「なるほど。たぶん、この近くに民宿とか旅館があるのだろう。きっと散歩に出て来たのだ」
 だが、自分の心がそれを打ち消す。
 「そんな筈はない。ここは観光地じゃないし、かなり山中に分け入ったところだもの」
 女の姿を思い出すが、とてもハイキングに来た者の格好ではなかった。
 「街中ならともかく、あのワンピースはこの場にそぐわないよな」
 あの女は藪の側を向いていたが、その先は斜面で何もない。
 「いったい、何をしていたんだろう」
 だが、何となく薄気味悪い気がして、俺はあの女のことを考えるのを止めた。
 そのまま道を進む。
 湖はまだ先で、この細道をさらに20キロ近く進まねばならない。
 俺は次第に憂鬱になった。
 
 5キロほど先に進むと、再び右に曲がるカーブがあった。
 左側は崖だから、車輪を外さないように気をつけて、ハンドルを切る。
 カーブを曲がり切り、前の視界が開けると、再び右側にあの女が立っていた。
 赤いワンピースを着ているが、細かい柄まで同じだから、たぶん、さっきの女だ。
 「そんな筈はない。もう3キロは先に進んでいるもの」
 いよいよ薄気味悪い。
 女の背中が近付き、右側の窓に赤色の服が広がる。
 「まるで、夫婦喧嘩をした時の女房みたいに、いかにも強情な背中だ」
 俺は背中を向け、こっちを向こうとしない妻のことを思い出した。
 女をやり過ごし、バックミラーで後ろを見ると、女の足元が見えた。
 踵が見えている。サンダルを履いているのではなく、裸足で立っているのだ。

 俺は思わずブレーキを踏み、車を停めた。
 何か事件か事故があり、その被害者が呆然とその場に立っているのではないかと思ったのだ。実際、前にも深夜ドライブをしていて、事件の被害者が道に立っているのに出くわしたことがある。
 俺は車のドアを開き、女の方に近付こうとした。
 どうしたのか、事情を訊こうと思ったからだ。
 ところが、一二歩歩いたところで、頭の中に声が響いた。
 「悪霊は相手が自ら招き入れてくれなければ、その者に取り憑ことが出来ない。だから、もしそういう存在を認めても、関わろうとしなければ、無事にやり過ごすことが出来る」
 俺の知人の話で、つい数日前に聞いたばかりだった。
 女はこんなところで、笹薮の中を見つめて、裸足で立っていた。
 しかも、数キロの間に2度も姿を見せた。
 「こいつが悪霊で無くて、いったい何だと言うんだ」
 俺はすぐに車に戻り、車を発進させた。

 それから先、山際を回る時には、俺は必ずクラクションを鳴らすようにした。
 こうすれば、対向車があっても相手が気付くだろうし、さらに甲高い音は悪霊が最も嫌うものだからだ。
 その後は二度と女は現れず、俺は無事に家に帰り着くことが出来た。

 「あの女はいったいどういう女だったのだろう」
 あの女が赤い服を見につけていたのは、それを着たからではなく、血飛沫が飛んで赤くなったからだ。
 今の俺にはそういう確信がある。
 ここで覚醒。

 これは宿谷の滝から鎌北湖に向かう道の話です。先日の印象が夢に出たものです。
 夢の中の知人は「神谷」という名でした。