夢の話 第634夜 それちょうだい
4日の午後1時の午睡時に観た夢です。
夢の中の「オレ」は起きている時のオレと同一人物。実は夢ではその方が珍しい。
オレは郷里の倉庫の片づけをしていた。
「随分片付いたな」
ここは昔住んでいた家で、父は個人商店を営んでいたから、売り場のスペースが結構ある。それをそのまま倉庫にしていたのだが、倉庫としてもあまり使用しなくなった。
最近、認知症気味の父がしきりに「そこで暮らせ」と口にするようになったので、オレはひとまず掃除をすることにしたのだ。
「何かに使えるかどうかは、その後で考えよう」
昔、父は雑穀を買い集めては東京に送っていた。一時はかなり大きな商売になり、ひと商売が5億6億で当たり前だったこともある。子のオレたちも秋から冬は死ぬほど働かされたっけな。
来る日も来る日も豆袋の積み替え作業だ。夜の12時過ぎに及ぶこともあり、果てしなく長かった。
「田舎の子は何かとハンデがあるもんだ」
でも、そのせいで多少のことは平気だ。見てくれのことなど気にしない。
田舎の子にはタイプが2つある。引け目を感じ、馬鹿にされることのないようやたら見てくれを気にするようになるタイプと、まったく逆に「オレ流」を通すタイプだ。後者はもし馬鹿にされれば、30発は殴り返す。都会の子は「倍返し」で済むかもしれないが、田舎者は子や孫にも及ぶくらいの復讐を返すもんだ。それだけでなく、先に殴ったりするから、ほとんどヤクザ者だ。
オレには兄がいるが、兄は前者で、オレはもちろん後者だ。
「スペースがあるんだから、それに入れるゴミみたいに安い物を集めて、高く売れるところに出せばよい。まずはそこからだな」
オレみたいなアナログ人間は、情報ではなく現物商売のほうが性に合っている。
いざという時には、情報も金も役には立たなくなる。隣国で戦争が起きれば、食糧や利用品など現物を動かせる商売だけが生き残れる。
それもまあ、もちろん状況による。
倉庫が老朽化して、実際にゴミみたいなものしか入れられないのなら、別のものを入れるしかない。
「商売ではなく道楽で使うのも良いなあ」
ボロいバイクや車を引き取って、レストアするとか。
電気炉を置いて焼き物を作る、とか。
それでも結構、楽しめる。
シャッターを開け、店舗の前の扉を開いた。
風通しを良くして、黴臭さを消していく必要がある。
「とりあえず、壁でも塗り直すかな」
実際、手をつけていたらしく、壁の一面は真っ白く変わっていた。
築五十年は経つ家だが、掃除をすればソコソコ使えるらしい。
売り場を眺めていると、表の方で人影が動いた。
ガラスの向こうに人がいて、中を覗いているのだ。
一歩下がって、外が見える位置から見ると、子どもたち3人が店の中を覗き込んでいた。
「ここは長い間閉まっていたから、物珍しいのだろう」
そのまま作業をしていたが、子どもたちもずっと中を見ている。
気になったので、声を掛けてみることにした。
「おいボクたち。何をそんなに見てるの。何か珍しいものがあるのかい」
子どもを「ボクたち」と呼ぶのは何十年ぶりだろ。今では死語だよな。
すると、その中の年かさのが答えた。
「そこにモンストがあるでしょ。もし捨てるなら貰いたいと思って」
子どもが指差す先を見ると、確かに机の裏にダンボールがあり、そこに小さな箱がささっていた。たぶん、そいつのことだ。
「ゲームのことか」
モンストって最近のゲームのことだよな。そいつが何でここに置いてあるんだろ。
ちょっと置かれた経緯のことが分からない。
「捨てる品ならあげてもいいけれど、誰の持ち物かが分からないんだよ」
父はよく他人の骨董を預かっていた。置き場所を無償で貸していたのだ。
元が他人のものなら勝手にあげたりすることは出来ない。
「そっかあ。今日中にそれが分かったりするかな」
最初の子が残念そうに言う。
「まだなんとも言えないね」
田舎の子らで、ゲーム機とソフトを買う余裕はないらしい。
名残惜しそうに店の前で遊んでいる。
話し声を聴いていたが、どうやら兄弟らしい。
何だかかわいそうになって来る。
「ゲームなんだから、ほぼ捨てる品だ。ならあの子らにあげてしまえばスッキリする」
そう考えたら、オレの頭の後ろに居た「起きている時のオレ」が口を開いた。
「そうだよ。あの子どもたち3人が誰かを、お前は充分に知っているだろ」
ここで覚醒。
ドキッとした拍子に、目が覚めました。
田舎に住む「三人の貧乏な子」らとは、父や叔父たちではないかと気付いたからです。
郷里の倉庫を掃除するのは本当で、今月から郷里まで父母を見に行く度に倉庫の掃除をすることになっています。ただ寝かせているだけでは勿体無いので、何かに使えるかどうか確かめるつもりです。