日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第675夜 核戦争後の世界で

◎夢の話 第675夜 核戦争後の世界で
 25日の午前2時に観た夢です。

 扉を開いて、外に出た。
 ギギと音を立て、扉が開く。
 ある程度予想していたが、外は細かい瓦礫の山だった。

 核戦争が起きたので、俺はかねてから用意していたシェルターに入った。
 H8700型のシェルターは冬眠型の装置で、液体の入ったカプセルに入って、時の経過を待つ。こういう時、SFでは冷凍睡眠ポッドに入るが、そんなことは現実には不可能なので、新陳代謝を遅らせる方法で眠る。脈は1分間に数回だし、呼吸は2分に1回だ。要するに、代謝を数十倍の速度に延ばして、長期間生きられるようにする。
 外の世界で20年経っても、本人が使った生命時間は1年分に満たないから、放射能の影響がなるべく小さくなるまで時を待つことが出来る。
 数十年先の世界、あるいは理論的には数百年後の世界までジャンプすることが可能だから、「時間を移動する装置」、すなわちタイムマシンと実質的に変わらない。

 目覚めてすぐにメーターを見たが、まだ戦争から30年後だった。
 これでは、世界に残存放射能に満ち溢れているわけだが、機器が故障し、それ以上、留まって入られなくなっていた。
 「仕方ない。外に出たって、いくらも生きられないだろうが、このまま中に留まってもただ死ぬだけだ」
 そう考えて外に出たのだ。
 
 そこで冒頭の場面となる。
 外には数センチの大きさのゴミのきれっぱしが山と築かれている。
 砂ほど小さくないし、岩ほど大きくもない。石のように丸くなく、かつては看板だったり、コンクリートだったり、鉄橋だったりした素材の細切れだ。
「どうやら生物はいないのだな。植物がまったく見えない」
 植物が死に絶えていれば、動物も生きられない。
 ということは、俺の命もあとわずかだ。飲める水がなさそうだし、食べ物がない。渇水死なら1週間、餓死なら20日だ。
 ま、それを乗り越えても、放射能の汚染がある。たぶん、毎時15から20マイクロシーベルトはあるから、せいぜい半年くらいだろう。
 「それも運命だ。なら動けるうちに、この世界を見て回ろう」
 俺はシェルターを捨て、外の世界を探索することにした。

 瓦礫の山の間を長いこと歩き、見晴らしのよい場所に出た。
 ここには元々、田圃が広がっていた筈だが、今はあちこちに瓦礫の山が築かれている。
 「どうやらどこまで行っても、こういう風景しかないのだな」
 産業廃棄物の処分場に入った時のことを思い出したが、あれより一個一個のゴミが小さく、山が高い。

 ここで、唐突に叫び声が聞こえて来た。
 「ぎゃああ!」
 若い男の叫ぶ声だ。
 300辰曚廟茲両山の後ろから聞こえて来る。
 「人がいるのか」
 なら、俺と同じようにシェルターに入っていた人だな。
 俺はそっちの方に近付いてみることにした。
 何が起きているか分からないから、俺は小山に少し上り、瓦礫の陰からそっと顔を出して向こう側を覗いてみた。
 すると、そこには若い男が倒れていて、その上に巨大な熊が覆い被さっていた。
 「うひゃひゃ。生き物がいるじゃねえか。しかもあんな猛獣が」
 だが、目を凝らして見ると、若者を押さえつけていたのも人間だった。熊のように大きなオヤジだ。
 その男は顔が焼け爛れている。皮膚が崩れて垂れ下がっているのだ。
 「何ヶ月か前にシェルターから出たのだな。それで放射能にやられたのだ」
 それがまた何で、若者を襲っているのだろう。
 まあ、答はひとつしかない。
 「この世界には、生き物がいない。そうなると、食えるのは・・・」
 熊男は若者を見つけ、食うために襲ったのだ。

 その時、俺の手元の瓦礫が崩れ、がらがらと音を立てて、斜面を落ちた。
 その音が聞こえたのか、パッと男が振り返る。
 俺は体勢を崩されていたので、隠れる暇が無く、熊男と目が合ってしまった。
 熊男は一瞬、目を見開いたが、次の瞬間には、嬉しそうに顔を歪めた。
 「イケネ。見つかった」
 俺は瓦礫の山を駆け下り、その場から逃げ出した。
 5百辰曚俵遒韻燭箸海蹐如後ろを振り返ると、熊男がすぐ後ろにいた。
 たった15辰らいの間合いだ。
 「おいおい。本物の熊みたいに足が速えぞ」
 俺は必死で走ったが、30辰らいの高さの瓦礫の山を越えようとした時に、熊男に首の後ろを掴まれてしまった。
 熊男は俺を空中に持ち上げると、「ガハハ」と高笑いを上げた。
 万事休すとはこのことだ。
 せっかく核戦争を生き延びたのに、まさかこんな最悪な死に方をするとはな。

 俺が諦めかけたその瞬間、熊男の足元の瓦礫ががらがらと崩れた。
 このため、二人は山の斜面を転がり落ちた。
 しこたま頭を打ち、気が遠くなる。
 数分後、ようやく意識がはっきりして来たので、回りを見回すと、熊男が地面から突き出た鉄の先端に刺さり、死んでいた。
 以前はここに電波塔があったのだが、核戦争で基礎の部分だけ残っていた。鉄の根元が割れて槍のように尖っていたのだ。
 「俺はツイてる。生きたまま食われることを考えれば、手の指を1本折ったくらいで済むなら御の字だ」
 転がり落ちた勢いで、俺は左手の小指の骨を折っていた。

 この時、俺の後ろから声が聞こえた。
 「大丈夫?」
 声のしたほうを向くと、女が立っていた。27、8歳くらいで、ほっそりした女だ。
 青春映画に良く出てくるようなすっきり系の美人だ。
 こういう時には決まってこういう、「キュートで知的」な女が登場する。差し詰め80年代ならメグ・ライアンの役どころだ。
 「貴女は誰?ずっと見てたの?」
 「ごめん。あんなやつじゃ、私は戦えないから、助けられなかったの。貴方の方はいつシェルターから出たの?」
 「今朝出たばかり」
 「そっかあ。仲間が出来てよかったわ」
 「本当だね。これで少しは生きられる」

 生命の危機に瀕している時には、多少、モラルを欠いたとしても許される。緊急避難ってやつだ。
 俺のいる世界には、動植物がおらず、食べ物がない。
 そうなると食べられるのは・・・。
 「放射能で焼けた熊よりも、断然こっちがいいよな」
 俺は自分の考えを口に出して言っていたらしい。
 目の前の女が「え?」と言って、両目を丸くした。
 ここで覚醒。