◎夢の話 第681夜 宅急便
26日の午前4時に観た夢です。
台所のほうから妻の声が響いた。
「ササキさんって知ってる?」
佐々木なら、ごくありふれた名だ。
「どの佐々木さんだよ」
「※○×▲□÷」
「なに?聞こえねえぞ」
「じゃあ、スーパーに行って来るから」
バタンとドアが閉まる。
十分後に玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン。
扉を開くと、男が立っていた。
「あのう。私は近所の者ですが、ウチ宛の荷物が届いていませんか?」
「え。うちにお宅の荷物が?」
「失礼ですが、名前が似ているので、時々、宅急便屋が間違えるようなのです。今回は海外からですし、横文字ではなおさらです。今日届くはずなんですが」
仕事中だってのに、小うるさいな。
「いえ。届いていませんよ。届いたら取り置きますから」
「そうですか。ではお願いします。また夕方にでも来ますので」
扉を締め、部屋に戻ろうとするが、「お茶でも淹れよう」と思い直し、台所に向かった。
台所のテーブルには、段ボール箱が置いてある。
「あ。これのことだ」
しかし、箱の封が切ってあった。
「女房が言ってたのはこれだな。うちに来た品だと勘違いして開けちまったわけだ」
中には缶詰が入っていたようだが、ひとつの缶の蓋が開いていた。
不味いよな。言い訳に困る。
缶のラベルを見ると、「tea」と書いてある。
「お茶か。紅茶だろうな」
他の缶を確かめると、「beans」とか何とかの缶詰だった。
「紅茶と豆か。普通に売られている銘柄のようなのに、なんでこんなのをわざわざ海外から送ったんだろ」
ここで何気なく、蓋の開いた缶に鼻を近づけた。
「ありゃ。こいつは紅茶じゃねえぞ。お茶でもない」
若い頃に外国で一度嗅いだことのある匂いだった。
「こいつは大麻じゃないか」
くるくると頭が働き始める。
なるほど。麻薬を密輸しようとしたやつがいて、大麻を缶詰に入れた。恐らく別のには、もっと強力なヤツも入っている。
缶詰に密封してから、表面を漂白剤で洗い、十分にすすいでラベルを貼る。麻薬犬だって、缶詰の中の匂いには気付かないからな。
おそらく、抜き打ち検査のことも想定して、半分くらいは本物の缶詰だろう。
これを送ろうとしたわけだが、まともに送ったのでは、露見した時に逮捕されてしまう。
そこで、適当なやつの住所氏名を使いそこに送ったというわけだ。
俺はここで宅急便のラベルを検めた。
「なるほど。Takashi Honda Jamesさま宛になってら」
俺は本田孝という名だが、後ろにJamesをつけてある。
これで住所が一番違いじゃあ、業者が俺のところに運んで来るだろう。よく見ると、名前が少し違うから、後で回収にいけばいいわけだ。
ここで俺の妄想が始まった。
俺はショートショートを書くのを仕事にしているから、何か見聞きすると、すぐにストーリーを妄想してしまう。
ま、職業病のようなものだ。
夕方、男が現われる。今度は後ろに若い衆を2人連れている。
「おい。荷物を出せ。届いたのは分かっている」
男たちは手に手に武器を携えている。
こりゃ面倒臭いぞ。
俺はすぐさま電話を取り、警察に電話をかけた。
「手柄を上げるチャンスですよ。目立たぬように私服で来て下さい」
こういうのは、早いとこ終わらせるに限る。
警察に来て貰い、さっきの男が来た時に掴まえさせれば良いわけだ。
かいつまんで話をすると、警察は「三十分後に伺います」という返事をした。
ここで俺はテーブルを見た。
「そうだ。せっかくだから少し貰って置こう。大麻の葉っぱは掴まりやすいので駄目だが、たぶん、豆の缶は大麻草の種か、別のヤクだろ。こいつを戴こう」
その豆の缶詰と同じ銘柄のやつが俺の家にもある。
昨日、隣の家からお中元として貰ったものだった。
ここで俺は呟いた。
「よし。念のためにこっちの缶詰はゴミ箱の中にでも隠して置こう」
もちろん、ゴミ箱と言っても俺の家のやつじゃない。隣の家の外に出ているゴミ箱の中ってことだ。
ここで覚醒。