日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

海にまつわる怪異譚 その2

「その1」から8年くらい経った後のことです。これは私自身の実体験。

三陸海岸を家族で訪れ、岬の先にある展望台風の食堂に入りました。
3階建てなのですが、2階3階は全く使用していないようでした。
海側ははるか遠くまで見渡すことができるように、全面がガラス窓になっていました。
景色が良い割には、しかし建物全体が薄暗く、いつも客の入りが悪い店のようです。
席数は70~80はありそうなのに、客は1人もいませんでした。

席に座り、しばらくすると、1歳の息子がむずかりだしました。
外では次第に雲が出てきているようで、暗い店内がさらに暗くなっていきます。
息子が泣き始めたため、抱き上げてあやしてみますが、全く収まらない。
「仕方ないな。外に連れてってやろう」
窓の外はすぐ先が崖なので、30m下の波がよく見えそう。

屋外に連れ出すと、息子はそれこそ身をよじって泣き始めます。
しょうがなく海とは反対側の駐車場に連れて行き、車の中で息子を落ち着かせました。
20分後、息子が寝付いたので、食堂の中に入り、皆の席に近づいたちょうど時、稲光が走り、暗い店内が一瞬明るくなりました。
その時、海側の窓一杯に、何十人もの人の顔がへばりつくようにこっちを向いているのが見えました。

大急ぎで家族を連れ外に出ましたが、車を発進させる時に頭の後ろのほうで声が響きました。
「けして気の迷いではないぞよ」
車を出し、数百辰盥圓ないうちに、道の真ん中には、たった今轢かれたばかりの犬の死骸が転がっていました。トラックに轢かれたのか、まだヒクヒクしています。
まるで妻が福井で経験したこととそっくりです。まさかそこから連れてきたというわけではないでしょうけど。改めて気づくと、言い回しまで似ています。

後で聞いてみると、その場所は自殺の名所で、断崖の上から身投げする人が後を絶たないそう。
釣り人が土左衛門を釣り上げたことまであったとのこと。
その食堂が繁盛していなかったのはそのせいなのでした。