日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第48夜 神の棲む山

「行っても大丈夫なのか」と友人が聞く。
「なんとなく呼ばれているような気がするんだよな」
カップを置くと、ガシャッという音が、客のいない店内に響いた。

姫神山にはもう30年以上、登っていない。
子どもの時、育った家が麓にあるが、誰も住まなくなって久しい。
時々、泥棒が入り、家財を持ち出していくとの噂だ。
しかし、今も時々この家で暮らしていた時の夢を見る。

夜半に目覚め、小用を足そうと思うが、闇が怖くて外の便所には行けない。
そんな時には、仕方なく2階の窓から外に向け小便をした。
ある夜、いつものように窓を開けると、すぐ下の道を歩く山伏が見えた。
闇の中、たった1人で山を目指し進んで行くのだ。

姫神山は東北の霊場の1つで、中世から山岳信仰の一大拠点だった。
家は奥州道からこの山に向かう西の入り口にあり、かつて山伏たちが修行した跡が周囲にいくつも残っていた。
昭和40年頃までは、そんな山伏がこの山の周囲にはまだ何人もいた。

「たぶん、あそこはただの山ではないんだと思う」
もちろんそれは「人によって」ということだ。縁のない者には普通の山。しかし、ある者たちには神の住む世界への入り口だ。
私にとっても、それは普通の山ではない。

小学校の遠足でこの山に登ったことがある。
その時、登山道の途中で、霧の中を山頂めざし進む何百人もの人の影を、私は確かに見た。
あれははたして生身の人間たちなのか。

「おめえ、その山に行ったら戻って来れなくなるんじゃないか。それは困る」
この友人は事業の共同経営者だ。私が消えては確かに困るだろう。

登山道の入り口に、「一本杉」と呼ばれる大木がある。
この杉の木までが下界で、そこから先は神霊の世界になる。
そこに立ち、山の上を見上げたなら、向こう側に私を待つ者たちが見えることだろう。
霧の向こうの人影が、次第に輪郭を現してくるのを感じる。

ここで覚醒。