第48夜に少し関連しているため、再録します。
車で山道を走っている。
場所は姫神山の裏手の方で、岩洞ダムとの間くらい。
霧が出ていて前が見にくく、5m先すら見通すことができない。
道に迷ったらしく、上へ上へと登っていくと、じきに車では通れない道幅になった。
霧のせいでバックは危険なので、車を降りる。
少し歩くと、霧がわずかに薄くなり、遠くのほうに灯がかすかに見えた。
近づいてみると、山の中腹にはまるで似つかわしくない大きな洋館だった。
正面の大きなドアを叩く。すぐに三十代と思しき男が現れ、中に招き入れる。
扉の内側はホールになっていて、中央に大きなテーブルがあり、男女が何人か座っていた。
席に着くと、それまでテーブルに置いた両手に顔を乗せ、眠っていたらしい女性が顔を上げた。
「ねえアンタ。今は何年なの?」(若い頃の桃井かおり調)
え?
「今は平成何年なのさ?」と繰り返す。
変なことを聞く女だな。今年はもちろん14年だ。
「今年は平成14年ですけど・・・」
女の顔が歪む。
「ああ、もう12年も経っちゃった」
オイオイと泣きだす。
周りの男2人は暗い顔でうつむいている。
「アンタ、ついてないね」
ホールの奥からもう1人、40歳くらいの女性が現れる(吉田日出子似)。
「時々、ここに人が迷い込むけど、ここは入ったら出られないところなんだよ」
え?何のことだよ。何言ってんだ。
「ここはさ、出口がないところなんだよ」
隣で、さっきの女がもう一度長く深い溜息をつく。
信じられん。
慌てて玄関から出て、つい今しがた降りた車の方へ近づこうとする。
しかし道は途中で切れており、その先は切り立った崖だった。
懐中電燈を当ててみるが、崖の下は漆黒の闇だ。
光の当たったところだけ、霧が渦巻いている。
仕方なく館に戻ると、今度は全員がテーブルにつき、私を待っていた。
この館の中にいる人々は、皆、私と同じようにここに迷い込んだ人たちだと言う。
私を招き入れたのは田中といい、昭和60年にここに来た。別荘地の開発で、測量にきたのだそうだ。
もう1人のヒゲ面の男、これは40代に見えるのだが、平成元年。篠塚という名で音楽評論を書いていた。
桃井かおり調の女はその翌年で、家族と一緒に釣りに来た。
吉田日出子似は比較的最近で、平成10年。小本街道を三陸に抜ける途中でここに迷い込んだと言う。
「もう1人、ユカちゃんという若い娘もいるよ。今は部屋で寝てるけど」 (続く)
(続く)と書いたけど、これは真面目に書き直し、小説にしよう。