日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第285夜 治療 (その2)

夢の続きです。

「それでも、この効果は長続きしないのです。そもそも、あなたの鶏に対する気持ちは嫌悪感に少々毛が生えた程度のものでしょ?」
「まあ、そうです。突然なら身構えるけれど、事前に意識すれば平気ですね」
「そうでしょう。だから1週間もすれば、酒は普通に飲めるようになります」
 医者は話をしながら、自ら言い聞かせるように頷いている。

「薬物については、今後、2度と手を出さないようにする必要があります。だから、もう一度潜在意識から、嫌悪感や恐怖感のアイテムを拾い出し、それを防護壁として利用します。具体的には、そのアイテムと薬物を結びつけるようなドラマの中にあなたを入れ、しっかりとあなたの意識下に組み込むのです。ある種、夢のようなものですが、バーチャルリアリティでセットしますから、とてもリアルですよ」
「何だかよく分かりませんが、それで薬物の依存症から抜け出すことができるなら構いません」
「では、まずあなたの記憶からあなたが最も嫌悪するものを探します。これは催眠療法を用いますので、さっきと同じ流れです」
 再び、医者のリードに従い、オレは催眠状態に入った。

 呼び起こされた記憶は、オレが高校生の時のものだった。
 オレは同じクラスの女子と初デートに出かけた。
 出掛けた先は遊園地だ。
 そこでオレたちは、ジェットコースターや観覧車に乗り、最後にお化け屋敷に入った。人がオバケを演じるタイプではなく、乗り物に乗って様々なオバケの出る部屋を訪れるヤツだ。
 オレは、狼男やドラキュラの部屋を笑って乗り過ごしたが、その次の部屋で固まってしまった。
 そこは地獄の部屋で、様々な鬼たちが亡者を苦しめていた。
 BGMはお経だったのだが、これがオレを怖れさせたのだ。
 そこから先のオレは、格好悪いことに、ずっと目を瞑ってやり過ごしたのだった。

「ほう。なかなか良いですね。この路線でさらにアイテムを探しましょう」
 医師がオレに告げると、オレは再び眠りに落ちた。

 今度の記憶は、オレが小学生の頃のものだ。
 オレは親戚の葬式に連れて行かれたが、子どもなので式には出ず、空き部屋で遊んでいた。
 オレは退屈のあまり、本棚を漁ったのだが、そこで地獄の絵本を見つけ出した。
 様々な鬼が、地獄の色んな階層で亡者を苦しめる、あの地獄絵図だ。
 独りきりで、怖ろしい思いをしながら、その本の頁をめくっていると、急に襖が開いた。
 外に立っていたのは、30歳くらいの女の人だった。
 その女はオレを見ると、話し掛けてきた。
「ねえ。鬼って、本当にいると思う?」
 きれいな女だったが、オレはなんとなく禍々しい雰囲気を感じ、返事をせずに黙っていた。
 すると、女が畳み掛けるように話を続ける。
「鬼ってのはね。本当にいるんだよ。地獄だけじゃなくってさ」
 ああ、嫌だ嫌だ。この先の筋書きは大体決まっている。

 実際にそうだった。
 女は急に笑顔になり、オレに言い放った。
「ほら。こういうのが鬼なんだよ」
 そう言うと、女の口が耳の近くまで裂け、顔がいきなり般若に変わった。
 オレは驚き、そのまま気を失ったのだ。

 すかさず医者の声が響いた。
「ほほう。それでは確かに怖かったでしょ。その女の人は誰でしたか」
 医者がオレを半分覚醒させ、確かめようとする。
「母が倒れている私を見つけてくれたのです。私は母にその話をしました。しかし、母によると、そこの家の親戚や葬式の来客には、そんな女性はいなかったと言うのです」
「そいつは確かに恐ろしい話です。あなたが地獄の絵を見たり、お経を耳にすると、恐怖感を覚えるのも当然のことですね。ではこれを使いましょう」
 これで医者は効き目のありそうなアイテムを見つけ出し、これでバーチャルリアリティの動画を作ることになった。

 それが出来上がったのが10日後で、オレは再びその医者に呼ばれ、病院を訪れた。 

(さらに続く)