日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第337夜 速い男 (3)

さらに続きです。

「じゃあ、とりあえず、コイツのを悪戯してやろう」
ヤクザ者の手牌はかなり良い手で、タンピン三色をテンパっていた。
掌の中には上がり牌が入っているはずだろうから、その手を開いて中を見た。
「やっぱりな」
手に握っていたのは三万で、これを積もれば三四五の三色だ。
次のツモ番でツモ切りリーチをかけ、一発で積もるつもりだろ。
こうすれば、一発ご祝儀が付く。
「さらに裏ドラだな」
もう1枚は裏ドラ用に真ん中の牌を握っている筈だ。
「よし。別のを握らせてやれ」
オレはヤクザ者が隠している牌を「発」に替えた。
もちろん、河に3枚出ている牌だ。
素振りで悟られないように、リーチの時にはツモ牌をそのまま即座にツモ切りする筈だから、おそらくそのままだろう。

オレはここでカウンターの後ろまで歩き、冷蔵庫を開いたままのメンバーの横から手を差し入れビールを出した。
「2缶くらい飲めば大丈夫」
ごくごくと一気飲みをして、もう1缶をグラスに注いだ。
それからオレはそのグラスを持って、自分の椅子に戻った。
「こうやって酒を飲んで、しばらく待てば、きっと普通に戻る」
オレだけが尋常ではない速さで動いているなら、オレがゆっくり動くようになれば、普通の状態に戻るわけだ。
そのことに気づいていたから、続けざまにビールを飲むことにしたのだ。

2缶目を飲み終わると、ようやく周りの者が動いて見えるようになってきた。
3缶目を飲み始めたところで、ほとんど普通の時と変わらなくなった。
オレが牌を切ると、下家のヤクザ者がすかさずリーチを掛けた。
手の中の三万を確かめるわけには行かないから、そのまま握って持っていることだろう。

このヤクザ者は川田と言う名前だ。
一巡して、こいつが牌山に手を伸ばして、ピシと手元に置いた。
「一発ツモだ」
その牌を見ずに、裏ドラを見ようとしたが、オレはすかさずその手を押しとどめた。
「それ。発ですよ」
「え?」
川田が視線を下に向け、ツモ牌を見る。
「そんな馬鹿な」
チョンボですね」
「何だと」
川田の目つきが変わる。
ここはいざとなると、やはりヤクザ者だ。
「ラッキーですね。もしそれをツモ切ったら、オレに国士無双を振り込んでます」
川田の目が丸くなった。
「おお。そうなのか」
何ごともケアが肝心だ。
コイツをからかおうと思って牌をすり替えたのだが、こうして置けば、腹も立たない。
たとえ8千点払っても、本来の4分の1で済むわけだ。
コイツだって損したような気にはならない。

麻雀が終わると、オレは馴染みのホステスがいるクラブに行った。
この夜の上がりは50万で、3時間のバイトとしては上々だ。
このクラブでは豪勢に飲んだが、ラストまで飲むと、ホステスを連れ出しアフターに出た。
最後はホステス1人を送って帰るわけだが、もちろん、その女のマンションに寄ることになる。
馴染みのホステスで、オレより7つ8つ若いが、客あしらいが上手い。

ことが終わり、ベッドで女の背中を撫でていると、この女が呟くように言った。
「ねえ。最近、何だか速くない?」

(さらに続く)