日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第384夜 本当は誰もいない

火曜の夜に、ふっつり意識を失くしたのですが、その時に観た夢です。

朝、目を醒ますと、母は家にはいなかった。
テーブルには「チンして食べてね」と書いた紙が置いてある。
母は看護師で、今は遅番だから、夜の9時から朝までが仕事時間だ。
僕は高校生で、部活や予備校があったりするから、少し遅くなると、丸1日母と会わないことがある。
まあ、母子家庭なので、文句は言えない。
母は僕を大学に行かすために頑張っているのだ。

家の玄関を出て、自転車に乗る。
高原にある町なので、家と家の間の間隔が広い。
隣の家までは百丹幣紊△襪掘△修領戮硫箸泙任眛韻犬らいある。
このため、近所の人にも滅多に出会わない。

朝夕は霧が出ているから、霧の中を自転車で進む。
十胆茲盡えない時があるから、最初は少し怖かったが、今ではもう慣れた。
ここに引っ越して来てから、だいぶ経ったのと、この道を車が通るのは滅多にないからだ。
驚かされるのは、たまにタヌキかアライグマが出ている時くらいの話だ。

この霧の中を自転車で進む。
高校まではおよそ2キロ。
2度アップダウンの上り下りがあるが、20分もかからず行ける。
途中で、霧の濃い所が1箇所あって、そこだけはさすがに気を遣う。
ほんの数胆茲泙埜えなくなるので、道路の白線だけが頼り。
僕は自転車を降り、その地点だけは自転車を押して歩くことにしている。
ここは坂道で、上りがキツいので、ちょうど良い。

この坂を上ると、道の脇に木造りのベンチがある。
上り道で疲れてしまった時には、このベンチで少しの間休憩する。
ベンチは湿っているが、朝夕霧の中を進むので、いつもタオルは持っている。

この日は少し真剣にペダルをこいで、自転車に乗ったまま坂を登ってみた。
やはり頂上までは漕ぎ切れず、手前で止まってしまった。
息が切れたので、僕はベンチで休むことにした。

ベンチに腰を下ろした時のことだ。
すぐに上の方で、内か物音がした。羽が風を切るような音だった。
「何だろ?」
それが何かはすぐに分かった。
目の前の道路に、ハンググライダーが降りて来たからだ。
この場合、「降りてきた」は正確じゃない。
5辰らい上で、「メキッ」と音がして、その後で男が落ちて来たと言った方が正しい表現だ。

「アイテテ」
男が呻いている。
僕はその男に近づいた。
「大丈夫ですか?」
男が顔を上げて、僕のことを見上げた。
「お。外に出られたか。ねえ君。今は何年だ?」
へ。空から降りてきた男が「今は何年だ」と訊いて来る。
これって、とてもまともな状況ではないよな。

「ねえ。今は西暦何年?」
男の視線が真剣だ。頭がおかしいのなら、無碍に扱うと危険かもしれないぞ。
僕はその男に調子を合わせることにした。
「今は2021年ですよ」
僕の答を聞き、男がため息を漏らした。
「うひゃあ。7年も経ってたか。時間にずれが生じるだろうとは思っていたが、7年とは」
この人。頭を打って、記憶が消失したのかも。

僕の怪訝そうな表情を見て、男が言葉を変えた。
「僕はしばらくの間、遠い所に行ってたんだ。すまないが、教えてくれないか。この5、6年で何があったのかを。東京オリンピックはどうだった?」
この人、何を言ってるんだろ。
東京オリンピック」がどうなったかを知らない筈はないけどな。
あの事件では、世界中が大騒ぎになったのに。

でも、もしかして、気が変になっている人なら、否定したりするのは不味いよな。
怒ったり、暴れたりされると面倒だ。
東京オリンピックはありませんでしたよ。だって、2018年の紛争でそれどころではなくなったですからね」
「紛争?何があったの」
「米中紛争ですよ。東シナ海での潜水艦事故から起きた、あの紛争です」
2018年の米中衝突を知らないとなると、この人が居たのは宇宙ステーションか、南米だよな。
あの事件の時には、すぐに通信連絡網が破壊されて、ニュースが届かなくなったし、電話もネットも繋がらなくなったからな。

「そんなことがあったのか」
男はハンググライダーの残骸を道の端に寄せると、僕のいるベンチに座った。
「ところで、ここはどこなの?」
「ここは太陽の町です」
「太陽の町?知らないな」
「この周辺は原発事故の影響で入れなくなったのですが、ここだけは高原の上にあるのと、気流の関係で放射能が及ばないので、暮らせるようになったのです。ここに人が戻って来られるようになってからは、太陽の町と呼ばれています」
「そっかあ」
男がもう一度ため息を吐く。

「小父さんはどちらから来られたんですか?」
「たぶん200キロは北だね」
それじゃあ、風に流されてここに来たわけじゃあないよな。
男が僕の方に向き直った。
「ねえ。突拍子のない話をしていい?」
空から降りて来た人だもの。多少のことは平気だよな。
「僕は2014年から来た。天女山に自分の別荘を買っただけど、そこに行ったら、出られなくなったんだよ。そこもここみたいな霧の多い所でね。周りが崖で外には出られない。そこで俺はハンググライダーを作って、そこから抜け出て来たんだ」
ここまで話をすると、男は急に言葉を止めた。
何かに気付いたのだ。

「ねえ。君はこの霧の中から外に出たことがあるの?」
「毎日、家から学校に通っていますから」
「なんて言う高校?」
「僕の高校は・・・。ええと」
その後が出て来ない。僕は自分が通う高校の名前を思い出せなかった。
「一緒に暮らしている家族は?」
「母です」
「何してる人?」
「看護師です」
「どこの病院で働いているの?」
「それは・・・。ええと」
僕はこれも思い出せなかった。

ここで男が頭を抱えた。
「なんてこった。俺はあの結界から抜け出せてはいなかったんだ」

ここで中断。

「霧の中」の続きでした。
外界から隔絶されたその男は、ハンググライダーで抜け出して来たのです。
ところが、ここもまだ霧の中の世界でした。
これは小説に書けますので、続きはそちらで。、