夢の話 第622夜 葬式の帰りに
14日の正午に見た夢です。
A田県の山奥まで行き、知人の葬式に出た。
知人は定年退職の後、山間の古民家を買い、そこに移り住んでいたのだ。
新幹線の駅からかなり離れており、A駅を下りてから、車で4時間は掛かる。
このため、参列者はまばらで、十数人だけだった。
オレはバスを乗り継いでそこに行ったから、朝早くA駅に下りたのに、家に着いたのは夕刻だった。
通夜葬式が同じ日の夕方で、オレはその家に泊めて貰った。
知人の身寄りは遠くに住んでいたから、その夜、家に泊まったのは、お骨とオレだけだった。
翌朝、オレは同じ道筋を辿り、家に帰ることになった。
バスを乗り継ぎ、A駅に着いたところで、「やはり田舎にも寄って行こうか」と考え直した。母が一人で暮らしているから、俺の顔を見れば喜ぶだろうと思ったのだ。
そこで、オレはローカル線に乗って、自分の家とは逆方向に向かうことにした。
この路線に乗るのは初めてだ。
1時間に1本の連絡があればよい方で、昼から夕方までの4時間は1回しか通じていない。
とりあえず、オレは午後いちのに乗り、駅を出発した。
すると、十駅も行かぬうちに、列車が終点に止まった。
「エレレ。どうなってるの?」
乗客全員が列車を降りて、駅から出て行く。
出口に看板があり、それには「ヘロロ線→」と表示されていた。
「なるほど。ヘロロ線に乗り換える必要があるのだな」
ゆっくりと出口に向かい、一旦、駅の外に出た。
田舎駅なのに、やはりターミナルだから、駅前がやたら広い。駅前商店街のシャッターは9割が下りていたから、やたら広く見えた。
前を行く人たちがとっとと先に行ってしまったので、駅前にはオレ独りになっている。
「ありゃりゃ。他の乗客はどっちに向かったんだろ」
どうやら、乗換え口は少し離れたところにあるらしい。
「どうしよう」
そこに佇んでいると、唐突に後ろから声を掛けられた。
「ああ。いたいた」
振り向くと、中年の男が立っていた。昨日の葬式に出ていた人だ。
「貴方はオザワさんですよね。今朝、お宅の方に行ったのですが、貴方は既に出発された後でした。故人から頼まれたものがありますので、持って行って下さい」
(オレって「オザワ」という名前なんだな。たぶん埼玉出身だ。)
男は軽トラックの荷台から、段ボールの箱を運んで来た。
「これはあの古民家の蔵にあった品だそうです。故人は資料を解読できるのは、オザワさんだろうから、オザワさんに渡してくれと書き残してあったのです」
そう言えば、知人とは十年に渡ってやり取りがあり、山の中では不自由があるだろうと、書籍や資料を送っていたのだった。
知人はそのことを、きちんと憶えていたのだ。
「中は古文書とがらくたみたいな物ですね」
男の言葉に、箱を開く。
すると、丁寧に綴じられた書き物が5冊出て来た。
江戸初中期の重要な書類を綴った物だ。
「こりゃ面白いですね。それと他にも何かある」
書物の横に縦横40センチ、厚さ4センチくらいの木箱が入っていた。
その箱を開くと、中に入っていたのは、古貨幣のコレクションだった。
「この地方の侍や商人には、古貨幣を収集していた人が結構居たと聞くけれど、実際、こんな風に残されているものなのか」
江戸の初中期の人が「古いお金」と見なすものだから、もちろん、平安時代の貨幣だ。
貨幣を作るための銭笵のかけらまで入っている。
「こいつはスゴイね」
気が付くと、何時の間にか、オレの後ろに人が集まっていた。
それが何なのか、知っている者がいるのだ。
「資料は嬉しいけれど、厄介な品がある。箱を閉じたままなら、そのまま仕舞っておけば良いが、こんな風に開けて、他人にも見られたなら申告の必要が生じる。ちょっと面倒なことになりそうだな」
1枚数万の品がざっと1千枚。資産評価で半値以下になるとしても千の桁だ。
相続するためには、税金を払うことになる。
そのために、品を売るとなると、相場ががたっと下がるから、結果的に税金を払うだけになるかもしれん。下手をすれば、「買い取る」より酷いことになるのかも。
「それなら、この足で博物館に寄付する手だな」
オレはその場に立ったまま、しばし思案する。
ここで覚醒。
「形見分け」で骨董品を貰ったことが幾度かあります。
「形見」なので、売るわけにも行かず、長らくそのまま倉庫に置いていたのですが、「オレが死んだ後に家族がこいつらを貰っても困るだろう」と思い処分することにしました。