続きです。
再び眠りに落ち、先ほどの夢の続きを見ました。
「コイツだ。コイツが殺した」
「何人も殺しやがって」
周囲の人たちの目がすわっています。
このところ続いた不安感の裏返しで、誰か犯人を見つけなければ気が済まないのでしょう。
もちろん、私の方もむざむざ殺されるつもりはありません。
鞄には確か護身用の武器が入っていたな。
そろそろとファスナーを開きます。
しかし、そんな覚悟は不要でした。
すぐに、私が犯人ではないとわかったのです。
「ぎゃあ!」
空から黒い塊が飛んできて、1人の男の首を引っ掴むと、空中に飛び去りました。
数秒の後、空から落ちてきたのは、その男の首でした。
うわあ。こりゃあひどい。
「鳥の仕業だって言っただろ。まだ来るぞ。早く逃げよう」
私の言葉に、皆が一斉に駆け出します。
やはり入れる場所は駅しかない。
数人で駅のほうに走ります。
背後では、また誰かが鳥にさらわれる音が聞こえました。
バサバサ。バサバサ。
一羽じゃないぞ、こりゃ。
駅前の交番に駆け込みます。
「お巡りさん。拳銃。拳銃!」
巡査は何のことか分からない風で、「え」と声を出します。
すると、ほんの数秒も経たないうちに、交番の前に鳥が降り立ちます。
やはり人の背丈ほどもある、梟のような、ペリカンのような黒い鳥でした。
「お巡りさん。撃って。早く撃って」
若い巡査は、鳥の姿に驚いたのか固まったままです。
「え?」
ダメだコイツ。使えない。
巡査のことはそこに捨て置き、裏口に走りました。
このドアから横に回れば、駅の構内に入れます。
後ろを見ずに走り出して、駅に駆け込みます。
改札口の近くには、十数人の人が固まって、電車が動き始めるのを待っていました。
「おおい、皆。すぐにどこか隠れた方がいいよ。通り魔は鳥だ。すぐにこっちに来るかもしれない」
改札を跳び越して、構内に入り、駅長室に入りました。
はあはあと息を吐きながら、この後のことを考えます。
あれは間違いなく鳥ですが、梟なのかペリカンなのか。
「どう思う?」
近くにいた若者に聞きます。
「そんなの、どっちだっけいいじゃないですか。どっちでも、殺されるのは同じじゃんかよ」
「いや、梟なら夜目が利くけれど、ペリカンなら暗いところでは飛ばない」
ここで最初の時のことを思い出します。
あの鳥。電飾が点いたら、動き出したっけな。
「あいつは暗いところが苦手だぞ。構内の電気を落とせば、入ってこない。そうすれば並木道に戻るだろ。戻ったところで、イルミネーションのスイッチを切ればその木の上でじっとしてるはずだ」
駅の配電盤は駅長室の隣にあります。
「よし。駅員さん。よろしく頼んます」
駅長室の中には、騒ぎを聞いて駆け付けた駅員がいました。
「はい。すぐに消しますね」
1分も経たないうちに、駅全体が暗くなりました。
すると、程なく、上の方で羽音が聞こえました。鳥は駅から遠ざかったようです。
「よし。次は並木道だ。商店街の電気はどこで点けてるの」
「駅前ビルの前の配電盤ですね」
「鍵を開けられる?」
「電気系統のトラブルの時のために1つ預かってます」
「よし、行くぞ」
私と駅員の二人で、駅の構内を出ます。
こっちの配電盤はすぐ近くで、並木道のイルミネーションはすぐに消えました。
駅も、駅前通りも真っ暗です。
「さて。今度はあの鳥を退治しよう」
「はい?」
「何匹いるかわからないが、皆木の上に固まっていて、動けない。今のうちだろ。夜が明けたら逃げてしまうかも」
「どうするんですか」
「スタンドでガソリンと灯油をもらい、混ぜて木の幹に掛ける。まるごと焼いてしまえばいいさ」
「どうしてガソリンと灯油を混ぜるんですか」
「おめー、バカか。ガソリンだけじゃあ、街全体を燃やしてしまうかもしれんだろ。すぐに燃え上がるが、しかし、商店街に燃え移ったりしない程度の火にしなけりゃならんのだ」
「なるほど」
五六人でガソリンスタンドに行き、皆で手分けをして、火炎瓶を作りました。
鳥のいる木の下に投げつけ、その木ごと焼くのです。
火炎瓶はすぐに30本ほどできました。
1人が5本ずつ持って、並木道の端から木の上を見上げます。
「いたいた。ここにいやがった」
鳥が隠れていたのは隣り合った3本の木の上でした。
「こりゃいいぞ。一挙に始末できる」
これなら火炎瓶を割らずに、集中的に撒くことで全滅にできます。
火を点けると、3本の木は瞬く間に燃え上がりました。
下が燃えていることに気づいた鳥が逃れようとしますが、周囲が暗いので飛ぶことができません。
飛び上がった鳥は、すぐに電線に引っかかり、下に落ちます。
地面に落ちた鳥に、すぐさま火炎瓶を投げ付け、火を投じました。
「グエエエ!」
鳥たちは火に包まれ、もだえ苦しんでいます。
ふう、とため息が出ました。
通り魔事件は解決です。
これで皆が安心して、ターミナル駅を行き来できる・・・わけじゃないですね。
鳥が殺していたのは、犠牲者の半分です。
残りの半分を殺した犯人は、まだここにいますので、これからも犠牲者が出ることになります。
私の鞄の中には、何人もの人の胸をひと突きにしてきた刺身包丁が入っていました。
ここで覚醒。
シリアルキラーは夢の中の自分でしたが、最後まで気づきませんでした。