日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第177夜 駅の殺人 その2

続きです。
再び眠りに落ち、先ほどの夢の続きを見ました。
 
「コイツだ。コイツが殺した」
「何人も殺しやがって」
周囲の人たちの目がすわっています。
このところ続いた不安感の裏返しで、誰か犯人を見つけなければ気が済まないのでしょう。
 
もちろん、私の方もむざむざ殺されるつもりはありません。
鞄には確か護身用の武器が入っていたな。
そろそろとファスナーを開きます。
 
しかし、そんな覚悟は不要でした。
すぐに、私が犯人ではないとわかったのです。
「ぎゃあ!」
空から黒い塊が飛んできて、1人の男の首を引っ掴むと、空中に飛び去りました。
数秒の後、空から落ちてきたのは、その男の首でした。
うわあ。こりゃあひどい。
「鳥の仕業だって言っただろ。まだ来るぞ。早く逃げよう」
私の言葉に、皆が一斉に駆け出します。
 
やはり入れる場所は駅しかない。
数人で駅のほうに走ります。
背後では、また誰かが鳥にさらわれる音が聞こえました。
バサバサ。バサバサ。
一羽じゃないぞ、こりゃ。
 
駅前の交番に駆け込みます。
「お巡りさん。拳銃。拳銃!」
巡査は何のことか分からない風で、「え」と声を出します。
すると、ほんの数秒も経たないうちに、交番の前に鳥が降り立ちます。
やはり人の背丈ほどもある、梟のような、ペリカンのような黒い鳥でした。
「お巡りさん。撃って。早く撃って」
若い巡査は、鳥の姿に驚いたのか固まったままです。
「え?」
ダメだコイツ。使えない。
 
巡査のことはそこに捨て置き、裏口に走りました。
このドアから横に回れば、駅の構内に入れます。
後ろを見ずに走り出して、駅に駆け込みます。
改札口の近くには、十数人の人が固まって、電車が動き始めるのを待っていました。
「おおい、皆。すぐにどこか隠れた方がいいよ。通り魔は鳥だ。すぐにこっちに来るかもしれない」
改札を跳び越して、構内に入り、駅長室に入りました。
 
はあはあと息を吐きながら、この後のことを考えます。
あれは間違いなく鳥ですが、梟なのかペリカンなのか。
「どう思う?」
近くにいた若者に聞きます。
「そんなの、どっちだっけいいじゃないですか。どっちでも、殺されるのは同じじゃんかよ」
「いや、梟なら夜目が利くけれど、ペリカンなら暗いところでは飛ばない」
ここで最初の時のことを思い出します。
 
あの鳥。電飾が点いたら、動き出したっけな。
「あいつは暗いところが苦手だぞ。構内の電気を落とせば、入ってこない。そうすれば並木道に戻るだろ。戻ったところで、イルミネーションのスイッチを切ればその木の上でじっとしてるはずだ」
駅の配電盤は駅長室の隣にあります。
「よし。駅員さん。よろしく頼んます」
駅長室の中には、騒ぎを聞いて駆け付けた駅員がいました。
「はい。すぐに消しますね」
1分も経たないうちに、駅全体が暗くなりました。
すると、程なく、上の方で羽音が聞こえました。鳥は駅から遠ざかったようです。
「よし。次は並木道だ。商店街の電気はどこで点けてるの」
「駅前ビルの前の配電盤ですね」
「鍵を開けられる?」
「電気系統のトラブルの時のために1つ預かってます」
「よし、行くぞ」
私と駅員の二人で、駅の構内を出ます。
こっちの配電盤はすぐ近くで、並木道のイルミネーションはすぐに消えました。
駅も、駅前通りも真っ暗です。
 
「さて。今度はあの鳥を退治しよう」
「はい?」
「何匹いるかわからないが、皆木の上に固まっていて、動けない。今のうちだろ。夜が明けたら逃げてしまうかも」
「どうするんですか」
「スタンドでガソリンと灯油をもらい、混ぜて木の幹に掛ける。まるごと焼いてしまえばいいさ」
「どうしてガソリンと灯油を混ぜるんですか」
「おめー、バカか。ガソリンだけじゃあ、街全体を燃やしてしまうかもしれんだろ。すぐに燃え上がるが、しかし、商店街に燃え移ったりしない程度の火にしなけりゃならんのだ」
「なるほど」
 
五六人でガソリンスタンドに行き、皆で手分けをして、火炎瓶を作りました。
鳥のいる木の下に投げつけ、その木ごと焼くのです。
火炎瓶はすぐに30本ほどできました。
1人が5本ずつ持って、並木道の端から木の上を見上げます。
 
「いたいた。ここにいやがった」
鳥が隠れていたのは隣り合った3本の木の上でした。
「こりゃいいぞ。一挙に始末できる」
これなら火炎瓶を割らずに、集中的に撒くことで全滅にできます。
 
火を点けると、3本の木は瞬く間に燃え上がりました。
下が燃えていることに気づいた鳥が逃れようとしますが、周囲が暗いので飛ぶことができません。
飛び上がった鳥は、すぐに電線に引っかかり、下に落ちます。
地面に落ちた鳥に、すぐさま火炎瓶を投げ付け、火を投じました。
「グエエエ!」
鳥たちは火に包まれ、もだえ苦しんでいます。
 
ふう、とため息が出ました。
通り魔事件は解決です。
これで皆が安心して、ターミナル駅を行き来できる・・・わけじゃないですね。
鳥が殺していたのは、犠牲者の半分です。
残りの半分を殺した犯人は、まだここにいますので、これからも犠牲者が出ることになります。
私の鞄の中には、何人もの人の胸をひと突きにしてきた刺身包丁が入っていました。
 
ここで覚醒。
シリアルキラーは夢の中の自分でしたが、最後まで気づきませんでした。