◎夢の話 第401夜 ファインダに
土曜の朝7時頃に観た悪夢です。
小山の上に見晴らしの良い神社があると言う。
平らな野原の真ん中に、周囲との標高差200辰らいの小山があり、その頂上に神社がある。そこに立つと、360度見渡すことができ、気持ちが良い。
「でも、そこに行くには500段くらいの階段を上るか、急斜面をロッククライミングするしかない」
そんな友人の話に、オレはすぐにその気になった。
「でも、その神社はご神体を返納したから、今は『前は神社だった場所』だよ。そういう場所には気を付ける必要がある。特に、お前みたいな敏感な人間は、だ」
「そんなのは、どこでも同じだろ。特別な場所なんてのは存在しない。オレみたいな者にとっては、どんなところだってパワースポットなんだし」
のべつまくなし、ということだ。
オレは次の週末に、その場所に行ってみた。
友人が言ったように、だだっぴろい野原にぴょこんと小山があり、周囲は切り立った崖だ。
「写真を撮って置こう」
まずは、遠目から全景を撮ろう。
やや逆光気味だが、少し角度を付ければ大丈夫。
フィンダを覗く。
「あれ?」
白い煙の筋が様なものが目に入る。
何だろ。霧か?それとも野焼きでもしてるのか。
ファインダから目を外すと、前の景色はとりたてて変わりは無い。
ごく普通の山の景色だ。
「どういうことだろ」
再びファインダを覗いて見る。
今度ははっきりと、白い煙の筋が見えた。
もくもくと尻尾を残しながら、山の周囲の空間を縦横に煙が飛んでいる。
「まるで蛇みたいな軌跡だな」
ファインダから目を外すと、やっぱり何事もない。
「これってもしや霊現象?」
オレの場合、写真を十枚も撮ると、そのうちの1枚くらいには必ず煙やら、玉やらが写りこんでしまう。
でも、こんな感じに、ファインダを覗いた時だけ見えるって経験はこれまで無い。
「カメラを通した時だけ、幽霊が写るってのはあるけどな」
苦笑いを漏らす。
ま、自分と関わりない煙や煙玉(オーブ)なら、大して問題ないだろ。
半分は自然現象と同じなんだし。
ところが、そういうオレの認識はかなり甘かったらしい。
再びファインダを覗き込むと、今度は山の手前に人が立っていた。
百辰論茲世、女であることは分かる。
白いワンピースを着た若い女だった。
何となく、嫌な気分になった。
「さっきまではあそこに人は居なかったのに」
ファインダから目を外し、直にその方向を見る。
すると、そこに女は居なかった。
「ありゃ」
慌てて、もう一度ファインダを見る。
女は50辰らい先に立っていた。
何時の間に、こっちに近づいたんだよ。
もしかして、こりゃ最も不味いパターンじゃね?
肉眼で見えない所をみると、この女はこの世の者じゃない。
しかも、たぶんオレが自分を見ていたことに、気が付いたのだ。
不味いぞ。
オレは無意識のうちに一歩二歩と後退する。
「オレに関わるな。オレはあんたを助けられない。自分を救えるのは自分だけだよ」
他に例えようもない恐怖を感じる。
オレの後ろの方には、同じように見物に来た人たちが十数人はいる。
だが、その人たちは今のオレに起きている事態とは無縁だ。
オレが何を見て、何を怖れているかは、想像出来んだろう。
「オレはお前とは何の関わりもないぞ。来るな」
そう念じながら、少しずつ車の方に移動する。
こういう時は体が思うように動かないので、早くは歩けない。
やっとの思いで、車に着く。
「ああ良かった。これでこの場を離れられる」
ドアを開き、運転席に座る。
デジカめを隣の席に置こうとした時、カメラを点けっぱなしだったことに気が付いた。
スイッチを切ろうとして、何気なくファインダの画面を見る。
すると、そこにはオレの膝の上に白い手が乗っかっているのが映っていた。
ここで覚醒。