◎北奥三国物語 鬼灯の城 恩讐の章(要約)
重清は三戸から釜沢に帰館すると、直ちに小保内三太郎を宮野城に向かわせた。
南部信直が宮野城を攻める準備をしていることを九戸政実に報せるためである。
書状を眼にすると、政実は自らが問い質すべく三太郎の前に現れた。
わずか一行の文面とひと言二言の会話で、政実は事態を把握し、迎撃体制の仕度をするよう一戸実富に命じた。
その三日後の十七日になり、重清は「目時家来の楢山伊右衛門に反逆の意あり」という報告を受ける。
重清は自ら楢山の屋敷に向かうが、伊右衛門は応ぜず、矢を放って来た。
重清は半刻の猶予を与え、用人や女子どもを逃がす。
伊右衛門を倒した後に、離屋に向かうと、病気の母親を守るために、娘が立て籠もっていた。
最後まで抵抗した者は、殺されるか戦利品として下僕に渡されるのが決まりである。
重清はその娘を不憫に思い、自らの戦利品として釜沢館に送った。
翌日、重清が館に戻ると、「宮野城が攻められている」という報せが入る。
三戸方は南弾正、北秀愛らを中心として、二千騎に徒歩五百の軍勢を仕立てて九戸政実を攻めた。
寒中の城攻めで、籠城方の方が有利である。
わずか半日で三戸軍は崩れ、散り散りになって敗走した。
その三戸軍の殿(しんがり)を東信義が務めていた。
信義は防戦しつつ退却していたが、ついには三人だけとなり、釜沢館を頼って来た。
重清は信義を迎え入れ、追手を追い返した。
閏一月。杜鵑女は北館の祈祷所で、商人の女将に子作りの祈祷を行っていた。
大麻の煙を嗅がせ、女将を朦朧とさせると、杜鵑女は巳之助に「女将に子種を仕込め」と命じる。
この頃、重清の許には、小野寺源治が正室・雪路が毒殺された件について報告に来ていた。
源治は重清に「桔梗さまと杜鵑女殿の周囲には目を離さぬように」と注進する。
源治と入れ替わるように、重清の前に杜鵑女が現れる。重清が毒について質問するが、杜鵑女が関わったという証拠は得られなかった。
杜鵑女が主館の外に出ると、桶を手に働く娘の姿が目に入った。
巳之助は「あれはお屋形さまの温情でこの館に入った『手つき女中』です」と語る。
名も知らぬその娘の姿に、杜鵑女は自らの境遇を重ね合わせる。
杜鵑女はここで改めて「桔梗を殺し、重清を奥州の盟主に押し上げる」ことを誓った。
(解説)
巫女・祈祷師である杜鵑女の人となりを語ることが中心の章です。「女性」への視点が必要となるので、かなり苦労しました。
中世の初期までは女性の地位が比較的高かった訳ですが、寒冷期に入り、飢饉が続くようになると、次第に貶められるようになります。
杜鵑女が自ら語るように、「今の世では女子は名すら記されぬ」境遇となるのです。
杜鵑女自身、口減らしのために親に捨てられた子でした。
霊視能力を持つ杜鵑女には、重清が奥州の覇者となる姿が見えています。
ところがそれを打ち砕き、重清や釜沢を業火に導くのが桔梗です。
こうして杜鵑女の怒りは、専らこの桔梗に向けられるようになるのです。
次章は三月の九戸方による反撃となります。
九戸政実は一月の宮野城包囲の報復のために、南弾正を襲撃します。
その間、釜沢周辺では、更なる相克が持ち上がって来るのです。