日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第51夜 宮野城にて

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「五右衛門、あの兵の数を見よ」
隣に立つ弥三郎がため息をつく。
物見櫓から見える宮野城の三方は、蟻というか雲霞というべきか、物凄い数の兵に取りまかれていた。残りの北側は切り立った崖で、下は馬渕川の急流となっている。
要するに、見渡すことの出来るあらゆる場所が、兵で満ち満ちているということだ。
「三万か四万といったところでしょうか」
「いや、あの後方には補給部隊が待機しているだろうから、さらに一万だ。全部で五万はいるだろう」
「畏れ入りましたな。弥三郎様」
「まったくだ。はよ将監殿に伝えよ」
一礼をし、櫓を降りようとすると、弥三郎が引き留める。
「待て。五右衛門、あれを見よ」
弥三郎が指差す方向は、はるか四町先の軍勢である。
「わかるか」
敵の兵たちの顔がかすかに揺れていた。
「彼奴ら、笑っていまする」
「やはりそうか。お前の眼なら確かであろう」
弥三郎はさらに自らに言い聞かせるように呟いた。
「あやつら、もう勝った気でいる」
確かに、自軍は五万、敵は五千という情勢では、そんな気にもなるだろう。
わずか三月前までは、この九戸の地は兵・領民合わせて二千人の小領だった。これに葛西・大崎の残党が加わり、城に立て篭もったのは五千人だが、兵力は半数ほどに過ぎない。
弥三郎はゆっくり後ろを振り向き、ニヤリと笑った。
「ではあやつらに一泡吹かせてやることにしよう」
五右衛門(夢の中の私)は改めて弥三郎に一礼し、梯子を降り始めた。
これから始まる戦で、この城の兵は皆死ぬだろう。豊臣が葛西で行ってきた例を見れば、女子どもに至るまで生きていられぬかもしれぬ。
どうやら腹を括る時が来たようだ。

ここで覚醒。
夢の中では、天正十九年八月二十五日、九戸宮野城の中にいました。
「厨川五右衛門」は現在執筆中の小説の主人公です。夢の中では、「弥三郎」は七戸家国の弟の1人の設定ですが、他の人物と名前がカブッてしまいますので、改名することになると思います。

追記)九戸(宮野)城の城址の写真があったことを思い出し、追加します。2005年11月に現地で撮影したもので、写っているのは甥です。