日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎背文銭の「白」

f:id:seiichiconan:20210426123249j:plain
f:id:seiichiconan:20210426123238j:plain
f:id:seiichiconan:20210426123226j:plain
f:id:seiichiconan:20210426124653j:plain
背文銭の「白」

◎背文銭の「白」

 取り置き箱に残っていたのを見付けたのだが、表面が白いので鍍金(メッキ)銭だと思っていた。薩摩白銅などで散見されるが(引っ掛かったことがある)、多くの場合、鍍金しても「銀銭に見える」程度の意味しかなく、骨董価値も上がらぬ。よって、鍍金銭は概ね「上棟銭」の類と目される。

 単に着色した品もあるから、偽物を作る意図で作られたものとは限らない。

 最近では、銀製の参考品もあるから「出所注意」の但し書きが必要だが、当品は度々書いて来た「少なくとも戦前の銭函」の中から出て来た品だ(秋田鹿角)。

 この箱のバラ銭からは寛永銭の母銭を含め、浄法寺銭の通用銭等、様々な品が出たから、恐らく商家のものだ。

 

 「どうせ拾った品だから」と幾つかをセットにして、一枚千円くらいで処分しようとしたが、買い手がつかない。同時に出した「銀含」の背文銭の方は、知っている人がいて、すぐに買い手がついたのだが、これもその銭函から出た品だ。

 この「鍍金銭みたいな品」を雑銭に落として、寄付にでも供しようと思ったが、そこで思い返した。

 「もう収集も今生も終わりに近づいている。いまさら何を躊躇するのか」

 この銭の輪側に十円玉の端を当て、ガリガリと擦ってみた。

 すると、あんれまあ、鍍金ではなく、中身も白かった。これは画像を見れば一目瞭然だ。

 ついでに、マイクロスコープを拡大してみると、輪側の仕立て方も面白い。

 グラインダ等を使用したものでないことは一目で分かるが、いわゆる縦鑢の部分と横鑢の部分が混在している。

 「これって本銭なのか?」

 少し小さいから、検討の余地はある。

 

 本銭なら銭譜の背文銭の欄に時々、「白」と書いてある品だと思う。たまに「白」と書いて売られている品は、これよりはるかに黄色いから、こちらが本当の「白」だろう。位付けが幾らか上位なのはそのせいか。

 これが密鋳銭なら、いきなり三ランクくらいアップする。

 密鋳銭には、錫を多用する白銅銭はごく少ない。錫自体が高価なためだ。

 寛永銭なら、「幾らか白銅っぽい」品が藩営・請負と鋳所不明銭に幾らかあるだけで、南部地方の白銅銭は二戸周辺の未知の密鋳銭座しかないとされる。

 ちなみに、この銭座があった場所は二戸だが、浄法寺ではないそうだ(今は合併で同じ市内)。

 この銭座のものとされる白銅の桃猿駒を所有しているが、寛永銭を見たのは、ごく少数の人だけだ。

 もちろん、戦前であっても、明治以降に作られたケースを否定出来ないわけだが、その時期に作っても何ら意味をなさぬし、この古い鑢または荒砥が入手できるかどうか。

 

 最後の画像は「三州屋銭」だ。

 盛岡周辺で、金銀に鍍金、紅色に色付けした寛永一文銭が出ることがあるのだが、「上棟銭」と見なすための記録が何ら残っていなかった。

 詳細は忘れてしまったが(多分、新渡戸仙岳『銭貨につきて』か『仙岳随談』)に「三州屋」の記載があった。

 三州屋は明治維新(明治当時は「ご一新」とのみ呼んだ)に乗じ、短期間で財を成した商人の一人だ。寛永銭に金銀紅の色を施し、「御輿に乗って市内を練り歩き、往来に銭を撒いた」とされている。

 現実に、これがその時の当品だという確証はないのだが、神社仏閣を含め、当地には他に鍍金銭の記録は無い。

 

 こういうのは、入札やオークションを頼りに収集していたのでは、永久に分からない。と言っても、ウブ銭を入手できる機会は「ほぼ皆無に近い」ので、骨董商(これも絶滅危惧種)、年配の古道具屋(リサイクルではない)に知己を作り、話を訊くことだ。

 そして「出所を確かめ、原典にあたる」ことを怠ってはならない。

 図書館の古資料で話がつくことは割とあるが、収集家の大半はこれをやらずに古銭書ばかり読む。このため、何時まで経っても誤謬が直らない。

 あとはやはりマイクロスコープだ。ルーペでは見えぬことが、一発で分かる。

 

 何も説明せず、「雑銭からこんなのが」と出して見せる。

 すると「ああ、これはネットで売られている銀銭」と口にする人はあっさりスルー。

 手を出して、「とりあえず輪側を見る」人には、丁寧に接しようと思う。

 

 追記)三州屋銭は、麻紐で括ってあった差に混じっていたが、この銭のみ、こよりがついていた。差を括った人も「コイツは何か変だぞ」と思ったらしい。

 ひとの心が見え、そのままそのこよりを付けたままにしている。

 追記2)「秋田」「銀(含)銭」、または「二戸」「白銅銭」のセットでドキッとする人は、かなり密鋳銭について知識と経験のある人だ。このアンテナは純粋に「経験」から生まれる。