日刊早坂ノボル新聞

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「九戸戦始末記 北斗英雄伝」 其の八 春時雨(はるしぐれ)の章

☆この章のあらすじ☆

 南部信直うたた寝から醒めると、前年に小田原で拝謁した秀吉のことを思い出した。異形の天下人・秀吉は大そうな勘気の持ち主で、信直の目の前で、己の意に添わぬ侍女を危うく絞め殺すところであった。「今のままでは秀吉の不興を買い、改易にされかねぬ」と考えた信直は、北秀愛を呼び出し、九戸党の征伐を重ねて命じた。
 一方、疾風は平八と共に、九戸政実の長男と目される鶴次郎を連れ、津軽に向う。途中、陽気な相撲取りの山ノ上権太夫が加わり、四人で鹿角に立ち寄るが、そこで大湯四郎左衛門と出会い、権太夫は大湯八幡の相撲大会に出ることになった。権太夫は勝ち残り、毛馬内勢の巨漢成田彦右衛門や浅石清四郎を倒した。
 大湯では、一族の危機を悟った四郎左衛門の計らいにより、疾風一行に長男の大湯勘左衛門夫妻らが加わった。一行は津軽に向け北上するが、小坂で毘沙門党の窮奇郎、紅蜘蛛が襲ってくる。疾風はこの攻撃を切り抜け、津軽大浦城に入った。
 疾風は大浦為信が課した弓の試射を難なくこなし、九戸市左衛門(鶴次郎)、大湯勘左衛門は大浦家に仕えることとなった。
 北奥の緊張は最高潮に達しており、東西の道筋には侍が溢れていた。疾風は二戸宮野城への帰路として敵陣のど真ん中を突っ切る道を選ぶのであった。

◇この章の登場人物氏名(登場順。○は豊臣・三戸側、▲は九戸側、□■※は氏名不詳に対する仮名または創作上のキャラクター。黒は九戸側、※は何れにも属さない者)

南部信直(45歳):北信愛の導きで、先々代・晴政、先代・晴継を暗殺し、三戸南部の当主の座に着いたが、決断力、統率力に欠ける主君である。
前田利家(53歳):織田信長本能寺の変により明智光秀に討たれた後、当初は柴田勝家に付くが、後に羽柴秀吉に臣従した。加賀を領し、陸奥の諸候との交渉に当たった。
○北主馬允(しゅめのすけ)秀愛:北信愛の次男(愛一の弟)。文武に長けており、才覚は三戸家中随一である。
▲九戸左近将監政実(56歳):二戸宮野城の城主。六尺(約180cm)を優に越える長身の持ち主。豪胆で武芸に秀でている。
※柊女(50歳くらい):九戸政実の幼馴染で、江刺家大滝の傍に棲む巫女。政実の長男・鶴千代は柊女の妹・鈴の子という設定となっている。
■厨川五右衛門宗忠(=疾風、30歳台前半):岩手郡姫神山の麓の領主・日戸内膳の配下で武術の達人。
■三好平八(45歳) :元は上方侍で三好康長の隠し子。葛西・大崎の一揆に乗じて北奥に落ち延びる。疾風と行動を共にすることにより、自分を取り戻した。疾風の人柄に惹かれ、参謀として接するようになる。
■九戸市左衛門(鶴千代:鶴次郎):政実の妾腹の長男と推定され、津軽(大浦)家に入る。
■山ノ上権太夫:五尺ちょっとの陽気な相撲取り。陸奥各地の神社の相撲大会に出ることで褒賞金を稼ぐのを生業としている。 
■雷(いかずち):旅を通じ疾風と心をひとつにしてゆく愛馬。
▲大湯四郎佐衛門昌次(50代前半):鹿角鹿倉館の主。南部家のために長い間安東と戦ってきたが、北信愛の悪辣な政治姿勢に疑問を抱き、南部家と決別する。大浦為信と親しい。
○大湯五平衛昌忠:四郎左衛門の兄で大湯館主。
○毛馬内権之助政次:毛馬内家惣領。室は七戸直時の娘。
○毛馬内三左衛門直次:政次の弟で室は大湯五平衛の娘。娘は四郎左衛門の嫡男・勘左衛門(勝三郎)に嫁ぐ。
○浅石清四郎:浅瀬石千徳の血筋で、大浦と与し自らの分家である田舎館千徳氏を滅ぼした後、大浦に城を落とされる。鹿角に落ち延び、家の再興を目指している。
○成田彦右衛門:鹿角の地侍で、後に信直に仕える(35石)。
※口入れ屋の松:三戸から閉伊までの範囲で用人の世話をする狐眼の男。毘沙門党に近い立場の者である。
※赤平窮奇郎(52歳):毘沙門党の赤平三兄弟の次男。
※紅蜘蛛お蓮(28歳):毘沙門党の赤平兄弟の義妹。縄術を使いこなす。
○大光寺左衛門佐光親(光愛とも。後に正親):花輪城代3,800石の主。元は津軽にいたが、大浦に追われ比内に来る。大館の前田下総の死後、彼の地を大湯四郎左衛門と共に攻め、南部信直に献上した。その功をもって花輪城代となる。室は久慈正則の娘。娘は大里修理親基の室。
○大浦為信(42歳):津軽大浦城主。元は三戸南部家の家臣の立場であったが、石川高信を攻め殺し津軽三郡の主となった。石川高信は九戸政実との共通の敵であり、それが縁で政実の盟友となっている。
▲■天魔源左衛門:七戸家国の家臣で、乱破衆(忍者)。天魔一族は男子は皆「源左衛門」を称するが、この章の源左衛門は「鳶丸」である(前章「卍」の弟)。
○阿保勘解由(あぼかげゆ):南部鹿角浪人。津軽に入り新田開発で功を上げる。
□長内弥三郎:「奥南落穂集」で言う「長内某」にあたる。鹿角長内一族の多くは九戸方に参じ、滅した。
○沼田祐光(40歳前後):津軽大浦家の執事。

<ひと口コメント>
 いよいよ前半のヤマ場に差し掛かります。三月十三日の九戸党の総決起の直前に、九戸政実は疾風に命じ長子の市左衛門を津軽大浦の元に送ります。鹿角では大湯四郎左衛門も、息子勘左衛門夫婦を疾風一行に加えます。
 疾風一行は、毘沙門党一味の執拗な追跡に悩まされながらも、与えられた使命を果たしました。
 疾風が命を救った人々は、皆疾風の人柄に傾倒し、臣従の礼をするようになります。
 次の9章は、三戸のお晶をめぐるエピソードと、いよいよ伝法寺、苫米地、一戸の戦いになります。

 この著作が書店に並ぶのはまだ先の話ですが、盛岡タイムスの新年号では「これまでのあらすじ」と「時代背景」が一挙掲載される予定ですので、必読をお勧めします。
「人は損得のみにて生きるにあらず」で、信念を持って生きようとする姿は必ずやシビれます。