日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第515夜 結婚式

◎夢の話 第515夜 結婚式
9月25日の朝6時ごろに観た夢です。

「ようやく帰ったか」
すぐ真下に地球が見える。やはり青黒い色だ。
地球の色は青だと思っている人が多いが、あれはNASAが画像を加工してそう見せている。実態はかなり暗くて、青黒い色だった。

オレは宇宙飛行士だ。
ほんの2ヶ月の間、宇宙で実験をするはずが、位置計測の機器が壊れてしまい、宇宙空間を彷徨った。機器が働かなければ、前後左右どこを見ても同じような星しかない。
絶望から、クルーの大半が自殺してしまい、残ったのはオレだけだった。
必死で機械を調整し、何度も地球を通り過ぎたが、こうやってようやく地球に戻ることが出来た。
勘定してみると、あれからほぼ2年が経過していた。

宇宙港に着陸しようとしたが、どうしても見当たらない。
仕方なく、オレは砂漠みたいな荒れ地に着陸した。
通信は依然として繋がらず、基地と連絡が取れない。
だが、荒れ地は街から数キロで、そこからなら歩いても街に着ける。
それに、ここはオレが出発前に住んでいた地域だった。

船の外に出たが、長い宇宙暮らしで、オレの脚はなまっていた。
仕方なくオレはそこで一晩過ごし、筋肉を揉み解した。
翌日、オレは街に向かった。
ところが、街の大半は破壊されていた。
「何てことだ。戦争があったんだ」
この2年の間に、ミサイルが飛び交う時期があったということだ。
「せっかく帰ったというのに、人類が全滅してたなんてのは、笑い話にもならん」
まあ、どんな状況でも、生き残っているヤツはいる。

瓦礫の中を進むと、やはり人がいた。
14歳くらいの少年だった。
浮浪者みたいな姿をしているかと思いきや、意外にまともな姿だった。
「ねえ。オレは宇宙から帰ったばかりなんだけど、何が起きたの?」
「十年くらい前に戦争があって、世界中の都市が破壊されたんです」
「十年前?そんなはずはない。それなら、オレはまだ宇宙に出ていないもの」
ここでオレは気が付いた。
宇宙を高速で移動していると、時間にずれが生じてしまう。
「ところで今は何年?」
「光瞭十五年です」
「西暦では?」
「2046年」
なんてこった。オレは2年の間宇宙にいると思っていたが、実際には16年だった。
出発した時、オレは26歳で、今は28歳の姿をしている。だが、地球に居た者とは一回り以上の違いが出てしまった。
それどころか、大半が死んでしまったのだ。

「生き残った人は今どうしてるの?」
放射能に汚染されていない山間部で農業をして暮らしています」
なるほど。ミサイルが狙うのは都市だ。高地には来ないし、汚染物も上がっては来にくい。
「どれくらいいるの?」
「生き残っているのは、おそらく全世界で8千万人くらい。この国では40万人。ここでは8百人ですね」
16年かあ。オレは遅く生まれた子だから、父母が生きている可能性は薄い。
オレには彼女がいたが、出発時には22歳だった。そうなると、今は38歳。
この戦争を乗り越えて、生き残っているかどうか。
もし生きているなら、おそらくここの住人がいるところだろう。

「オレを皆のところに連れて行ってくれるか?」
「うん。いいよ。外から人が来ることは滅多にないから、皆が喜ぶ」
こうして、オレは少年に連れられて、山の村に行くことにした。
山を登ること3時間。ようやくその村に着いた。
村の入り口を入ると、「ゴオン」「ゴオン」と鐘の音が響いた。
「これは何?」
少年は村で一番高い建物を指差した。
「今日はあそこで結婚式があるのです。人を増やすために、結婚と出産は村人皆で祝うしきたりです」
「お前は出なくていいのか」と訊くと、少年は「へへ」と笑った。

教会のような建物に近付く。
周りには村人が数百人集まっていた。
その人込みの中心には、この日の主役である夫婦が立っている。
「ありゃ。あれは」
見間違える筈はない。新婦はオレの彼女だった。
16年の月日が経ち、それなりに齢を取っているが、印象は変わらない。

「そっか。そうだよな」
何せあれから16年だ。彼女はオレの帰りをずっと待っていたから、結婚するのがこの齢になったのだろう。
「ダンナは優しそうだし、幸せそうだよな」
なら、オレのすることはひとつだ。
オレは人込みからゆっくりと離れ、来た道を戻ろうとした。
だが、逆にそのことで、目立ってしまったらしい。
「ケンジさん!」
背後で声が響く。
後ろを振り向くと、花嫁が走り寄ってくるところだった。

「ケンジさん。あなたはケンジさんでしょう?」
目が真剣だ。
オレはほんの少し躊躇したが、ここで腹を決めた。
「違います。ケンジはオレの兄です。オレは齢の離れた弟です」
「そうなの」
花嫁がオレの顔を見るが、確かにオレは若者の姿をしている。
「ご結婚おめでとうございます」
オレは彼女にそう告げて、ひとつ頭を下げた。

オレはもはやこの世界では死人と同じだった。
「死人は姿を現すことをせず、思い出の中に生きるべきだ」とオレは考えたのだった。

ここで覚醒。