◎夢の話 第656夜 岬にて
28日の午前5時に観た夢です。
我に返ると、森の中を歩いていた。
「ここはどこで、俺は誰なんだろう」
思い出せない。今、自分が存在しているという意識はあるが、名前や過去の記憶が無いのだ。手足を見ると、たぶん18歳くらいの若者だな。
草を掻き分けて、広いところに出る。
ふうっと潮の香りが漂って来た。
「海の近くなのか」
そのまま足を前に進める。
上を見上げると青い空と白い雲。快晴だ。
思った通り、見渡す限り左右に海岸線が続いていた。
正面は恐らく岬で、突端が向こうにせり出している。
その岬の端に、幾人も人が立っていた。
「あんなところで何をしているんだろう」
何となく近付いた。
人集まりまで30辰らいの位置に近付くと、背後から声がした。
「あんまり近づかないほうがいいよ。驚いて誰かが海に落ちるかもしれないから」
振り返ると、俺の後ろに女の子が立っていた。
年の頃は17、18歳くらい。今どきの子らしく、頭が小さくて手足が長い。
若い頃の森高千里みたいな、裾の尖ったミニスカートを穿いていた。
上はスタジアムジャンパーだ。
「うえ。趣味が悪い。ヤンキースかよ。きっと田舎者だな。日本なら巨人ファン」
女の子の右眉が上がる。
「そう思っても口に出しちゃダメだよ。でも、ま、ここでは頭で考えたら言葉で出てしまうけどね」
「でも脚はもの凄く綺麗だな。モデルみたいにがりがりじゃない。スポーツ選手なみの引き締まり方だよね。きちんと筋肉が乗っている」
如何にも取ってつけたような褒め言葉だが、しかし、勝手に口から出てしまう。
「ところで、あの人たちは何をしてるの」
どうしても岬の人たちのことが気になる。
皆が海のほうを向いてじっとしていた。
「忘れちゃったの?」
「ああ。記憶らしい記憶が何ひとつ無いんだ」
「あれは、あなたの体をコントロールする精霊たちだよ」
「え。俺の体を動かしているってのか」
「うん。全員が『無意識の意識』という精霊だよ。心臓や肝臓を動かすには意思や指示が必要だけど、それを意識していたら、頭の中が一杯になる。だから、あの精霊たちが替わりにやってくれているんだよ」
全員が無表情なのは、ひとり一人が自分の担当の内臓のことを考えているせいなのか。
「ふうん。俺の体を調節しているのは50、60人の精霊だったのか」
「正確には47人だよ」
「47人。討ち入りかよ」
でも、その「討ち入り」って言葉が何の意味なのか、今の俺には分からない。
「ありゃ。47人と言ったが、ちょっと足りないんじゃないか」
一人二人と数えてみる。
「ほれ。やっぱり41人しかいない」
女の子が少し困ったような表情になる。
「何人かは岬の端から落ちて、海に還ったの」
「道理で、俺の内臓はあちこち病気に罹ってら。やりくりするヤツがいなくなったからか」
何となく納得した。
この時、遠く後ろの森の中から、「うおおおう」という叫び声がした。
獣のような、もしくは悪人が吼えるような声だ。
俺は女の子の顔を直視して訊ねた。
「ここにはあんなヤツもいるのか」
女の子が頷く。
「ウン。この世界には悪霊も悪魔もいる。そいつらから皆を守っているのがあなただよ」
と言うことは・・・。
「俺も精霊の仲間だってことだ」
「そう。あなたは『自意識』。外の悪意から皆を守るのが務めなの」
そっか。悪霊にせよ悪魔にせよ、悪意が寄って来たら、俺がそいつを倒すわけね。
ふと気付くと、俺は右手に大刀を握り締めていた。
「ありゃ、何時の間に」
でも、ちょうど良いや。
「じゃ、ちょっと行ってくっか」
俺は精霊たちに背を向け、森に向かって歩き出した。
しかし、十歩進んだところで、俺は振り返った。
ふと気づいたことがあったのだ。
「ところで、君は何ていう人?君も精霊の仲間なんだろ」
すると、女の子が微笑みながら答えた。
「私は『良心』。あなたのことを守るのが務めなの」
ここで覚醒。