日刊早坂ノボル新聞

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◎古貨幣迷宮事件簿 「舌千大字と大字無背」

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舌千大字と大字無背

◎古貨幣迷宮事件簿 「舌千大字と大字無背」

 各地の知人を通じ、収集品の整理を進めており、それがほぼ終盤となった。

 コロナの影響で、骨董関係の売買が不調であるため、どれくらいかは戻って来るだろうと思う。いずれにせよやっと肩の荷を下ろせる。

 

 さて、この二品は最後まで手元に置いた品だ。

 背千字類が仙台(石巻)に発祥する銭種であることは周知のことであるが、背千字類は南部(盛岡・八戸)領に伝播し、独自の展開を遂げることになった。

 軽米大野に鉄山(砂鉄)があり、この地の職人が仙台領に出稼ぎに行き、その帰路に母銭を持ち帰ったことがきっかけとされている。

 当時はまだまだ自由に行き来出来たわけでは無いから、双方の藩庁の了解があり、許認可を得て行われた筈である。

 だが、こういう話は殆ど聞いたことが無い。

 古貨幣の収集と研究に際しては、今も「藩境」が存在し、仙台藩の貨幣は宮城県の人が、また盛岡・八戸の貨幣は、岩手や青森の人が各々で行っている。

 めいめいが郷土史研究、郷土愛に基づいて行っているわけだが、この場合、専ら収集・研究の対象が「領内の貨幣」に限定されるきらいがある。

 結果的に、このような「出自は仙台藩だが、親戚に盛岡。八戸南部藩があるような銭種」については、研究テーマになり難い。

 よって、どのように変化したのかを系統的に整理する視点が生まれ難いジャンルとなっている。

 

 さらに困ったことに、背千字類は銭笵(拓本)上の特徴で観察できる差異が小さく、「違いがよく分からない」という難点がある。

 掲示した二種については、私はいずれも「舌千大字」の仲間だと考えている。

 地金と製作がまったく同一で、「出自は仙台(石巻)大字背千にある」と考えるからだ。

 八戸領には、新規に文字を函入して制作した銭種は存在しない。必要が無く、背千または無背で十分だからだ。

 となると、出自は「舌」に加工可能な銭種ということになる。

 文字の小さいものを大きくすることは出来ないから、「舌千大字」の出自は「仙台(石巻)大字背千」に求めることが出来る。

 極めて簡単な話だ。

 だが、無背銭については、「千」字そのものが消失しているため、判断の拠り所を失ってしまう。

 

 ではどうするか。

 答えは「原点に返る」で、大字が八戸で展開したものかどうかを観察することになる。

 大字背千を出発点とする八戸の銭種には、他に「十字銭(千)」がある。(この分類には、大字由来、小字由来の双方があるようだ。)

 前に、「八戸背千」の面背文の検討をしたことがあったが、「十字銭(千)」と「舌千大字」とは極めて近似していた。

 細分化を目指すのではなく、「起源を辿る」観察眼い立てば、いずれも同一ではないだろうか。

 

 それなら、まずこの「無背」銭を「大字無背」と見なすところから再スタートすればよい。このため、掲示の画像には「大字無背」と記している。

 拡大すると、千字を刮去した痕が残っているので、正確には「大字無背(千字刮去)」ということになる。

 残念ながら、文字の特徴は分からないのだが、明らかに「字が大きい」ことが見て取れる。

 

 あとは類似点と相違点を探してゆけばよい。

 一例として輪側の下手に関する画像を掲示したが、両銭はまったく同じである。

 最初にバリを縦方向の鑢で落とし、次に斜め方向、および横方向に荒砥または砥石を掛けている。要するに、銭を固定して、鑢(砥石)の方を動かして仕上げたということだ。

 ちなみに、官営銭座では、大量の鋳銭を想定していたので、研磨のための装置を用意した。「縦鑢」の「逆蒲鉾型の荒砥」、「横鑢」の「銭棹を回転させる研磨器具」などである(名称不詳)。

 そうなると、ここで初めて「十字銭(千)」との相違が生まれる。

 「八戸小字背千」と「十字銭(千)」が同じ場所(おそらく葛巻鷹之巣)、時期に作られたと見なされるのは、輪側が蒲鉾型、すなわち、縦方向の仕上げが中心だということだ。

 そこで、「舌千」類と「十字銭(千)」を隔てる基準を「輪側」としたいところであるが、やはり中間種が存在している。

 たたら炉は、その都度炉を壊して移動するし、職人も入れ替わる。その時の状況で鋳銭工程に変化が生じたのか、あるいはそもそも鋳所、時期が異なるかということについては、よく分かっていない。

 

 いずれにせよ、「舌千」類と製作が同一でもあり、「舌千類の中の大字無背(刮去)」と言えるのではないか。

 そこで、ふと気づくのは、「そのことは要するに舌千大字無背と同じことだ」という帰結となる。

 収集家が気にするのは、「多い・少ない」ということだろうが、八戸の座銭であれば、大字背千系の銭はそもそも少ない。刮去銭なら、「十字銭(千)」だろうが、「舌千大字」だろうが、ほとんど確認されていない。

 それなら、別に「大字無背」でも良いとも言えそうだが、ここから先は、既に私が論じるべきものではなくなった。

 

 追記)堅実な表現を採るならば、「舌千大字手」「大字無背(刮去)」になろうかと思う。なお「舌千大字無背」であれば、過去に数枚程度見付かっているようだが、「十字銭(千)無背」の発見例は無い。後者には判断の決め手が無いからであるが、そもそも「大字背千」系の銭はあまり多くない。これはすなわち「銭径が大きい」から「鉄材節約のため避けられた」ということではなかろうか。

「小字背千」との違いは、「基本的に銭径が違う」わけだが、写しを重ねるといずれも小さくなり煩雑になる。

 

注記)この記事は直接、一発殴り書きで書いており、推敲も校正もしません。よって、表現や見解の統一性などに幾らか不首尾が出ることがあります。