日刊早坂ノボル新聞

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◎今日の「でまかせ故事成語」は 「▢▢実直」

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今日の「でまかせ故事成語」は 「▢▢実直」

 エレベーターに乗ると、この日の四文字熟語の問題は「▢▢実直」だった。

 やや。これは参ったな。

 殆どの人が思い浮かぶのがあの言葉だ。たったひとつで、かつ故事成語でもない。そのまんまだ。

 まさに四文字熟語ウォッチャーを悩ますパターンだ。

 言葉遊びを試みようにも、どうにも変化に乏しい。

 では奥の手だ。創作故事成語。ま、「出まかせ」で話を作ろう。

 

◆「謹厳実直」の由来

 今は昔のこと。検非違使に平実直という男がいた。

 実直は身分の低い家に生まれたのだが、実は平清盛の妾腹の子だったから、どんどん引き立てられ、検非違使の地位まで上がった。

 清盛は出家の身で、そのことを公には出来ない。このため、実直が清盛の子だということは固く伏せられ、出世も検非違使の地位までに留まった。

 実直はそれが面白くなく、己の職務を厳密に果たすことで、自らの栄達を実現しようとした。

 

 ある時、その実直が奥州安達ケ原に巣食う鬼の退治を命じられた。

 実直が軍勢五百をもって安達ケ原に攻め寄せると、そこにいたのは、夷人のひと家族だった。

 夫と妻、それに男児二人の四人だ。

 実直が庵の前に立つと、その家の主人が出て来た。

 「これはまた如何様な御用でしょうか」

 見ると身の丈が七尺に届きそうな大男だ。眼の色が鮮やかな青色をしている。

 「お前が世人を惑わす鬼か」

 「いえ。違います。私らは代々ここで生まれ育った者で、鬼などではありません」

 実際、家は質素で、干し魚などが屋根裏に差してあった。

 粟や稗を育て、魚などを採取して暮らしているのだろう。

 そんなのは見れば分かる。

 

 だが、実直は天皇に「鬼の首を持ち帰れ」と命じられている。

 もし命に背けば、出世が妨げられるだけでなく、左遷の憂き目に遭うかもしれぬ。

 「いや。お前たちは鬼だ。そうに違いない。そうでなくては俺が困る」

 実直は下士に命じ、家族を捉えさせると、直ちに全員の首を撥ねた。

 その後、実直は四つの首を塩漬けにし、天皇と清盛の前に差し出した。

 実直はその功で、検非違使庁の長官に命じられた。

 

 だが、人の口に戸は立てられない。

 家族の首を撥ねた役人が、そこで起きた事実を漏らした。

 世人は驚きあきれて口々にこう言った。

 「なあんだ。実直は勤めに忠実で厳格にその務めを果たしたと思われていたが、実際にはただのひと殺しだ」

 この時、「謹厳なる実直」という言葉が生まれた。

 命じられたことを忠実に厳格に達成するようでいて、実は私利私欲に走った実直を揶揄した言葉だ。

 時を経るに従って、本来の言葉の意味が失われ、「務めを忠実に果たす」という意味だけが残った。

 読み方も元々は「きんげんじっちょく」ではなく、「きんごんさねなお」と読む。

 はい、どんとはれ。

 

 ちなみに私は「きんごん」と読むと思っていた。普通は両方の読みがある筈だが、この場合は「きんげん」のよう。

 「きんげん」なら「金言」の方が先に思い浮かぶ。

 

 追記)夷人には老婆(夫の母親)がいたが、実直の追討隊が家を取り囲んだ時にはそこに居なかった。老婆が家に戻ると、家の前に首の無い四つの屍が残されていた。

 老婆は怒り狂い、都人に復讐を誓った。

 そして老婆は旅人を獲って食らう鬼、すなわち山姥になった。みたいな。