日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第235夜 大学の講義室

深夜の大リーグ中継を見ようと、仕事を中断してテレビの前に座ったら、5分もしないうちに眠り込んでいました。
これはその時に見た短い夢です。

目が醒めると、文学部の坂の上にいる。
建物の中に入り、教室のドアを開けた。
中にいたのは、女子学生がひとり。

(懐かしいなあ。)
頭のどこかに、現実と繋がっている部分があり、第三者的に今の情景を眺めている。
(この子は、オレが学生時代に付き合っていたSだ。表情はあの時のままだな。)

今は夕方で、外は薄暗い。
ガラス窓に映る自分の姿を見ると、オレのほうも学生時代の姿だ。

「ねえ」
Sが請うような眼でオレを見る。
「なに?」
「いつまでも、皆に隠していなくちゃならないの?こうやってあなたと付き合っていること」
この子の言うとおり、誰1人としてオレとこの子が付き合っていることを知らない。
「別に隠しているわけじゃあないだろ。吹聴したり、人前に出ないだけで」
オレには放浪癖があり、大学時代にはほとんど学校に行かなかった。
自然と付き合う相手も限られてくるわけで。
「そう。なんだか隠し事をしているみたいで嫌だわ」
「自分たちでべらべら言い触らす話でもないだろ」
「そうよね。わかった」
Sがオレの顔を正面から見て、ニコッと笑った。

(ああ。この笑顔だ。オレはこの表情が好きだったよな。)
「たぶん、今までに出会ったどの女性よりも、だよ」
ここは口に出して言っていた。
「え?何?何のこと?」とSが尋ねる。
「いや、何でもない。これからウン十年後に分かる話だ」
「そのウン十年後に分かりそうなことを、今から考えているの?」
まあ、そうだ。とっくの昔に忘れたつもりでも、こうやって夢に見てるわけだし。

この時、教室の入り口から男子学生が1人中に入ってきた。
「こんばんは」
そう挨拶をして、その男子は近くの机に座った。
何気なくそっちの方を向くと、そこに座っていたのは見覚えのある顔だった。
「お、〇〇。どうしたんだ?」
座っている男子学生は、オレの息子だった。

「トーサン。オレはトーサンの大学に行くと言ったじゃん」
「入れたのか?」
「うん。合格した」
息子はいつもエンジンのかかりが遅く、どこに行っても、誰の間に入っても成績は中くらい。
と言うことは、周りに合わせて勉強しているという意味で、悪く言えば「いつもテキトーなところで手を抜く」性質だ。
本気になれば、ソコソコの大学には入れると思っていたが、まさか本当に偏差値を10くらい飛び越して合格するとはな。

「こっちの女のひとは・・・」と言い掛けて、言葉が止まる。
トーサンが学生時代に付き合っていた女子で「今でも好きなひと」だとは、さすがに息子には言えない。
(母さんが可哀相だしな。)

え?「母さん」って。
オレには妻がいたのか。
ここで現実世界のもろもろが頭の中になだれ込んでくる。

ついさっきまで、心も体も22歳に戻っていたのに、急に〇十年も齢を取ってしまった。
もう少し、青年のままでSと話したかったよな。
オレのどういうところが悪くて別れることになった、とか。
本当はその後もずっと忘れられずにいる、とか。
くどくどと痴話ゲンカまで出来れば、さぞ楽しめただろうに。

「仕方ねえな。オレは先に帰る」
息子が間近にいるところでは、女性を眺められる気分にはなれない。

第一、あれからその後の人生をどういう風にやり直したとしても、結局は今の妻と結婚しているような気がするわけだし。
ま、そんなもんだよ。

ここで覚醒。

この数年の間、昔の知人と町で偶然出会うのですが、齢を重ねているせいか、少し話をするだけで、昔の心情や状況を理解できるようになっています。
今は「あの時オレはどうしてこうしなかったのか」という類の後悔が減って行きつつあります。
まさに、夢は記憶の整理箱というところ。

かたや、心の闇が晴れる一方で、「そろそろオレの人生にもオサラバかも」という気もします。

夢の中のSは実在の女性ですが、程なく実際に出会うような予感があります。
「神さまが思い出を整理整頓させてくれようとしている」ような気がするのです。
今生のお別れを告げる機会がもらえるのかもしれません。