日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第249夜 黄昏の時

昼過ぎに急に気分が悪くなり、居間の床で2時間ほど昏倒しました。
これはその時に観た夢です。

目が醒めると、大学のキャンパスにいる。
辺りは既に暗く、6時限目が終わった後のよう。
オレが立っていたのは、事務局の掲示板の前だった。

気がついてみると、右手に何か紙を持っている。
何だろ?
「合格通知」とある。
格通知って、オレはこの学部の学生で、もはや何年いるか分からないくらい在学している。
20年?30年?(もちろん、夢の中での話だ。)
しかし、今回合格したのは、同じ学部の別の学科だった。
「あ、なるほどね。今のを退学して、こっちで入り直すわけだな」
でも、オレはもはや「いいトシ」で、学生というより教授の年齢だ。
「でも、まいっか」

家に帰るべく、校門の右手にあるバス停からバスに乗る。
バスは結構混んでいて、運転手の姿が見えない。
でも、小一時間もしないうちに、席が空くはずだ。
「なにせ、乗り換えが面倒だからといって、普通は40分で来られる道を、2時間も掛かる大回り路線で通っている学生なんか、そうそういないもの」
このバスに乗ると、いずれはオレが住んでいるアパートの前を通るが、そこに着くまでの乗車時間が2時間かかる。
電車なら、ひと駅かふた駅ずつ4回乗り換えると、40分で着く。
でもオレは駅の喧騒が嫌いなので、このバスにしているのだ。
「こんなに混んでるんじゃ、電車と同じだよ」

しかし、案の定、10分もしないうちに、人が降り始めた。
次第に車両の前の方が見えて来る。
「あ。あれは」
バスの前から3列目のところに、女性が座っていた。
あれは、オレがしばらく前まで付き合っていた彼女だ。
もう別れちまったが、まだこのバスで通っていたとは・・・。
「相変わらずほっそりしてるなあ」
背がソコソコ高くて痩せているので、どんな服を着ても良く似合う。

オレの家と大学との間の半分くらいのところに住んでいたっけな。
後頭部を眺めている間に、そのバス停に着いた。
彼女はやっぱりそこでバスを降りる。
オレはそれを眺めているうちに、何となく気になって来る。
「今はどうしてんだろ」
バスのドアが「シュウッ」と音を立て、閉まりそうになる。
「ちょっと待ってください。降ります。降ります」
慌てて、前の方に走る。
急いでいたので、椅子のところに傘を忘れてしまった。

バスを降りると、彼女はもはやかなり前を歩いていた。
早足で追いかける。
息を切らしながら前に進み、ようやく彼女のマンションの前で追い着いた。
少し躊躇するところはあるが、背中から声を掛ける。
「ねえ」

しかし、彼女は振り向かず、そのままマンションの中に入る。
「おかしいな。聞こえたはずなのに」
そのまま後ろからついて行く。
彼女の部屋の真ん前で、また後ろに立つ。
今度は手が届きそうな距離だ。
ガチャとドアの鍵が開く。
「ねえ」の「ね」の音の所で、ドアが開いた。
すかさず、部屋の中から「お帰り」という男の声がした。

なるほどね。もう次の男がいたか。
そう言えば、オレと彼女が別れることになったのも、あちらの男関係だった。
要するに、尻が軽いということ。
なんでこんなことを忘れていたのか。

もう一度バス停に戻る。
「もう遅くなっちまったよな」
ここで、今いる場所が、母親の実家の近くだってことを思い出した。
「もちろんそこにお袋はいないけど、オレのことは泊めてくれるだろ」
その家に向かう。

母の実家は大きな農家だ。
本業は米作りだが、牛も三十頭は飼っている。
夕方は牛の世話で、家族は皆、牛舎で働いている。
家には誰もいなかったが、オレは勝手に上がり込んだ。

ここの常居(最も大きな居間)は広くて、秋から春までは床を外して下の囲炉裏を出す。
この囲炉裏は、オレがこの家で一番好きな場所だ。
囲炉裏端に座り、勝手に火掻きで灰を崩し、火を熾す。
すぐに炭の焦げる匂いがする。
いつ嗅いでも良い匂いだよな。

ガラガラと戸が開く。
勝手口の方ではなく、奥座敷の方からだ。
現れたのは年配の女性だった。
「お袋。じゃなく祖母ちゃんか」
齢を取ったら、母は祖母ちゃんにそっくりになってきた。

祖母はオレの顔を認めると、ゆっくりと近寄ってきた。
柔らかい表情だ。
きっと、「おお来てたのか。待ってたよ」と言うんだろ。
すると、祖母はオレのすぐ前の所で立ち止まった。
祖母の体が斜めに傾いていく。
「どうしたの?大丈夫」
そう声を掛けるが、ここで「あること」に気がついた。

「祖母ちゃんは、もう何十年も前に死んだんだよな」
じゃあ、なんでここにいるわけ?

ここで、もっと大切なことに気がついた。
「あ。オレが死んだんだ」
だから、オレのことを迎えに来た祖母ちゃんのことがよく見えるわけだ。
なんでこんな大事なことを、今の今まで忘れていたんだろ。

耳元で妻子の泣く声が、遠くかすかに聞こえて来る。

ここで覚醒。

狭心症の発作が出た時の夢ですが、なるほど、その状態にふさわしい内容でした。
しかし、いざ発作が出始めると、もはやニトロに手を伸ばすことも出来ません。
やはり、錠剤は首に吊るして置く必要がありそうです。