日刊早坂ノボル新聞

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夢の話 第441-2夜 旅館にて

◎ 夢の話 第441-2夜 旅館にて

 ひと安心して、午後4時ごろに、再びテレビの前で眠りました。
 これはその時に観たコテコテの悪夢です。

 気が付くと、どこか畳の部屋で座っていた。
 周りを見渡すと、40畳くらいの広間に長卓がたくさん並べられていた。
 「見たとこ、温泉旅館の広間だな。飯を食うところだ」
 少し離れた卓に、オヤジ2人が座って酒を飲んでいるが、その他に客はいない。
 オレは正座をしていた。
 誰か自分より目上の人と会うわけだな。

すぐに、その待ち人が現れる。
 オレの師匠だった。
「お、待たせたかね」
「いえ。今着いた所です」
 オレの師匠は浴衣を着ていた。
「君に会いに行こうと思っていたが、なかなか出られなくてな。それに私が来られるのはここまでだから、君の方に来て貰わねばならないんだよ」
「すいません。私もここにはなかなか来られないのです。最近、ようやくこの部屋の所在を知ったばかりです」
「あんまり長く居られないから、早速用件を伝えるよ。こっちには、なかなか空きが出ない。だから、当面は別の道を探して貰おうと思ってね」
 何の話だろ。研究職の話か?先輩方が沢山控えているから、オレの大学での教員になるには、長期間待って居なくてはならないと言うことか?
 オレの師匠はかれこれ25年前に死んだ。こっちの世界で何があったのかは知るすべはないよな。
「いや、師匠はオレの会社の事務所開きにも来ている。その用件じゃないよな」
 嫌な感触だ。「あの世」のことじゃないよな。
 今は無いけど、もうすぐ空きが出来るって流れなら、本当に迷惑だ。
  空きが出来た瞬間に、オレは「あの世行き」ってことだもの。

 まあ、はっきりそうだと言われるまでは、心配する必要は無いだろうけど。
 オレは師匠が亡くなってから起きた出来事についてあれこれ説明した。

 ひとしきり話が終わると、少しの間、2人は沈黙した。
 すると、ちょうどその間隙を待っていたかのように、遠くの縁側の方に何やら気配があった。
 この旅館は、広間の周りを回るように、縁側が取り巻いている。
 縁側は障子の向こう側だ。その障子に女のシルエットが映っている。
 女はゆっくりと縁側を回り、こっちに近づいて来る。
 広間の中にいる男たちが一斉にそっちの方を向いた。

 「おっと。どうやら厄介なヤツが現れたようだ。今日は君はここで帰りたまえ。あいつに捕まると酷いことになる」
 「え。何が来たんですか」
 奥にいたオヤジたちが、オレに声を掛けて来た。
「おい。アンタはやばいよ。俺たちはここの住人だから相手にされないが、アンタは別だ。あいつに捕まらないようにすぐにここから出た方がいいよ」

 女が縁側の角を曲がった。
 ここからは障子が開いていたので、女の姿を見ることが出来る。
 女は縞模様の着物を着ていた。色は白黒のみだ。齢は40歳かそれえり少し下くらい。元は丸髷を結っていたようだが、今はそれが崩れてぐしゃぐしゃになっている。
 顔を見ると、まったくの無表情だ。
「ヤバいぞ。こいつは極め付けの悪霊だ。こんな感じで表情の無い奴が本物の悪霊だ」
 大正時代に、この女は惨たらしい死に方をしたのだが、今まで長い間暗い所で眠っていたんだな。
 こういうのが起きて来ると、一番厄介だ。
 「逃げよう」
 回りを見回すと、もはやオレの師匠も、オヤジ2人も姿を消していた。
 「いいよな。あの世の住人は。こういう時にさっと逃げられるもの」
 オレはそうは行かないぞ。
 立ち上がって、廊下に出る。縁側に繋がる廊下だから、女には逆に近づくことになる。
 ほんの5メートルの所に、無表情な顔が立っている。

 「いかん。早くここを出なければ」
 すぐ脇の角を曲がると、階段が有った筈だ。
 オレがいたのは1階だけど、外に出るには、階段を下りる必要がある。
 「ここはあの世とこの世の境目だからだな」
 急いでそっちに向かおうとするが、足が上手く動かない。
 気が付くと、手を伸ばせば届きそうな位置に、あの女が来ていた。

 ようやく階段の最初の段に足が掛かる。
 オレは毛の靴下を穿いているから、気を付けないと、階段を転がり落ちてしまいそうだ。
 はやる気持ちを押さえて、2段3段と階段を下り始める。
 階段の半ばまで下りると、後ろの気配が遠ざかっている。
 首を曲げて、後ろを見ると、あの恐ろしい女は階段の上の所で止まっていた。
 すると、この時、階段の下の方で声がした。
「もう大丈夫だよ。あいつは外には出られないから」
 前に向き直ると、五十台半ばくらいの女性が立っていた。
  薄紫の洋服を着ている。温和な表情だった。
 なんとなくホッとする。

 「階段からこちら側は、あなたの領域だから、あの女は入って来られない。でも、あっちに行くときは気を付けた方が良いよ。うっかりして、あんなのに捕まったら、戻っては来られなくなるもの」
 オレは「ふう」とため息を吐いた。
 周りを見回すと、オレがいたのは、昔、子どもの頃にオレが暮らした家だった。
 「ここなら安全だ。確かに『ここはオレの縄張りだから、軽々しく入って来るな』と強く言う事が出来るもの」
 
 ここで覚醒。
 周りにいた子どもらによると、「トーサンは眠っている間、うんうん声を出してうなされていた」とのことです。
 これから1月の終わりまでは、こういう悪夢が毎日続きます。
 年中行事とはいえ、夢を記憶したまま起床する者にとっては、キツい季節です。
 後段の夢に出て来る女は、悪霊と中年女性ですが、どちらも自分の分身とは思えない。
 とりわけ、オレの家にいたあの女性は誰なの?