日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第708夜 道場で

◎夢の話 第708夜 道場で
 6日の朝5時に観た夢です。

 我に返ると、俺は大広間のようなところに座っていた。
 板張りの50畳敷きくらいの広さの道場で、中央に60歳位の男が座っていた。
 僧侶か神職なのだが、小ざっぱりした法衣を着ているので、どちらなのかよく分からない。
 中央に男を囲んで、50人くらいの男女が座っていた。

 その男が口を開く。
 「これから私は衆生救済のために、諸国を行脚する。連れは一人だ。私と共に旅をしようと思う者は誰だ」
 なるほど。この男は周りの者たちの師匠なのだ。導師なのか。
 皆が「ハイ」「ハイ」「私が」と手を上げる。
 俺は自分の置かれた状況がまだ飲み込めていなかったから、ほんの少し挙手が遅れてしまった。
 導師はそんな俺にちらと視線を送ると、全体を見回す。

 「しまった。師は私のことを想定していたのだ」
 どうやら、この宗徒の中で、俺がナンバー2か3だ。
 ひと呼吸起き、導師は同行者を決定した。
 「よし。按淳に行って貰おう。長く困難な旅だ。長年、苦楽を共にして来た者なら心強い」
 俺の隣に座っていた男が、ここで頭を床に擦り付けるように平伏した。
「こいつか」
 こいつは俺の幼馴染で、俺はこいつのことを「きんちゃん」と呼んでいた。
同じ頃に師の許に入った。ライバルとも行って良い。
 うっかりして、こいつに先んじられるとは。
 導師の目が俺に向く。
「お前はこの道場に残り、他の者たちを導くのだ」
 「はい。畏まりました」

 集会が終わり、皆が広間を後にした。
 俺の務めはその場に留まり、後始末を見届けることだった。
 五人ほどが残り、広間の清掃をするのだが、その監督ということだ。
 俺が眺める前で、弟子たちが噂話をしていた。
 「導師さまは、外に出て、迷える亡者たちを導くと申されていたが、そんなことが果たして可能だろうか。この中は安全だが、いざ外に出れば、法力が通用しないかも知れん」
 「そんなことは覚悟の上だろう。導師さまは、外に亡者が溢れ返っていることを危惧し、幾らかでも救おうとお考えなのだ。要するに、ここに残る者たちのために外に出るのだ」
 「それじゃあ、従者として選ばれなかった方が幸いなのかもしれんな」
 「ま、俺たちの力ではどうにもならんからな」

 話はこうだ。
 この道場の敷地は塀で囲まれているのだが、その外には「亡者」が沢山いる。
 「亡者」が何を指すのかはまだ分からんが、とりあえず「厄介な相手」らしい。
 そいつらをどこかに導いて、数を減らすことで、この道場の安全を保つことを目的に二人が何かをしにいくわけだな。
 ゾンビ映画で、死者の群れの進行方向を変えさせる場面があるが、たぶん、そんな感じではないのか。

 「いかに導師さまとて、外の世界は危険過ぎる。二人とも戻って来られなかったら俺たちはどうすれば良いのだろう」
 「これ。そんな話は不味い」
 一人が顎をしゃくり、皆が俺の方を見た。
 やはり、俺は「導師さま」に最も近い立場の者らしい。
 今の俺は、これまでのことを一切忘れているから、どんな風に振舞えば良いのかが分からない。
 そこで俺は広間の端に進み、縁側廊下に出た。
 広間に背を向け、外の様子を眺める。
 広い中庭の先には、塀が見える。そしてその外側は・・・。
 その外側には、灰色の霧が渦巻いていた。その先の景色がまるで見えない。

 「おいおい。ここは一体どういうところなんだよ」
 正用門のところまで出れば、もっとはっきり外の様子が分かる筈だ。
 だが、俺はそれを確かめるのが、何となく嫌だった。
 「もしかして、こいつは夢か。俺は夢の中にいるのか」
 それならいいが、もしかして、これが夢ではなかったとしたら。
「結界の外に、亡者がごまんといるところと言えば、ここはあの世で、すなわち幽界ということだ」
 もしこれが夢ではないとしたら、俺はもう死んでいて、幽界の中にぽっかりと存在するこの道場に篭っている幽霊の一人と言うことだ。
 「なら、ここから外に出れば、あっという間にそいつらの仲間になってしまう」
 導師は自らを過信して、「外の者を救う」と言うが、その導師がここに戻って来る時には、亡者の一員として来る。
 すなわち、ここに来た導師は、何としても門扉を開けさせようとするだろう。

 「では按淳はどうなる。きんちゃんは」
 俺の幼馴染はすぐに邪魔な存在になる。
 すると、ここで声が響いた。
 「きんちゃんは危ないよ。お前も気をつけるんだよ」
 母の声だった。
 「あ。お袋」
 その声は今の俺が置かれた境遇の上での「母」ではなく、本物の母の声だった。

 「あ。これは夢だ。しかもあの世に繋がる夢だ」
 すぐに起きないと。
 ここで覚醒。
 目覚めて、すぐに思ったことは、「『きんちゃん』って一体誰?」ということ。
 それに該当する人物を私は知りません。
 夢の中の「きんちゃん」は私の替わりに滅んでくれるらしい。

 ひとが眠っている時は、肉体の機能が休眠し、脳も大半が休んでいます。
 夢を観ている状態は、「あの世」に最も近しい状態と言えそうです。
 かたちを変えていますが、この道場は、いつもの旅館と同じところです。
 ひとまず、縞女をはじめとする亡者たちを建物の外に出すことには成功しているらしいです。