◎夢の話 第754夜 亡者の群れ
3日の午前4時に観た夢です。
我に返ると、どこか知らぬ場所にいる。
周囲には人が溢れていた。
「まるで有馬記念の時の府中競馬場だ」
となると、凡そ十万人くらいか。
皆がてんでばらばらな方向を向いていたから、競馬場とは趣が違う。
「この群集は一体何だろう」
何をするでもなく、ただ呆然と立っているのだ。
まるでゾンビ映画みたいな趣だ。
ひとり一人の姿はと見れば、どれもこれも異形の者たちだ。
カラスのような嘴を持つ者まで居る
そのカラスみたいなヤツがたまたま俺のことを目に留めた。
すると、そいつはいきなり「ギャアア」と叫んだ。
その声で周囲の者たちが一斉に俺の方を向いた。
「※▲□=&ヤワガッ」
皆が俺の方に押し寄せて来る。
「助けて」「助けて」「助けて」
周囲の何千人が俺に向かって手を伸ばす。
「なるほど。コイツは夢だな。俺はあの『百鬼夜行』の夢をまた観ているのだ」
俺は亡者の夢を時々観る。
何十万人(匹?)の亡者が俺を目指して追い駆けて来る夢だ。
「しかし、目の前に迫るこんなバケモノみたいな奴らを見れば、『こりゃ夢だ』などと悠長なことは言っていられんな」
俺の周りには、薄気味悪い顔をした女たちが寄り集まっている。
皆、死んでも妄執に取り憑かれたままの者たちだから、心根が醜い。醜い心はかたちになって現われるから、こんな姿かたちになってしまったのだ。
俺の頭に、そんな亡者が間近に顔を寄せ、口々に「助けて」と叫ぶ。
俺はついに腹を括って、こいつ等を導くことにしたわけか。
これはこれまでの夢とは違う。
いつもは亡者たちから逃げて逃げて、ようやく不動明王に救われる。
そんな展開だ。
しかし、ついに亡者たちに背中を見せるのをやめたわけだ。
「しかし、こんな数じゃあ、とても埒が明かない」
身動きすら出来ない状況だ。
参ったな。何とかしなくては
ここで、少し顔を挙げ、遠くの方を見ると、二十メートル後ろに人だかりが出来ていた。
正確には「亡者だかり」だ。
そこの中心は亡者だが、その亡者の頭には猫が乗っている。その亡者は猫を頭の上に捧げ持っていたのだ。
「あ。あれはトラじゃないか」
神社猫のトラは、死後、私の傍にいるが、やはりここでも近くにいたのか。
「トラは大丈夫だろうか」
いかんせん、この群集だ。いかに霊猫といえども、対応は難しい。
「でも、トラがいるということは・・・」
巫女さまもいるってこった。
俺はさらに首を伸ばし、周囲を眺め渡した。
すると、四五十㍍先に白く光った場所が見えた。
亡者に囲まれているが、そこだけぽっかりと丸く空き地があり、そこが光っていたのだった。
そして、その中心には、巫女さまがいた。
俺はこの時、亡者たちと押し合いへし合いしていたが、頭の中では別のことを考えていた。
「とりあえず『巫女さま』と呼んでいるが、あの人は何という名前なのだろうな。元は人だろうから名前がある筈だが」
かなり遠くだが、ミステリーサークルみたいにぽっかり開いたところで光っているから、巫女さまの顔がはっきり見える。
「誰かに似ていると思っていたが、夏目雅子さんに似ている」
ま、装束が似ているということだろうけど。
巫女さまは美人顔だが、それでもやっぱり『あの世』の住人なので、どこか怖いところがある。生身の体が持つ温かみが無いのだ。
「凄まじい」という表現がよく似合うが、美人だから一層その怖さが引き立つ。
「しかし、この状態では如何ともし難いな」
一人ではどうにもならんが、三人が集まれば事態を打開できるかもしれん。
そこで、まず俺は近くにいるトラに声を掛けた。
「おおい。トラ。今そっちに行くからな」
亡者を押し退けて、トラの方に歩き出す。
五六歩近付くと、ようやくトラが俺に目を留めた。
「ニャア」
まるで姉が弟を諭すような声だった。
「ま、この世界では、俺の方がはるかに格下だからな」
何だか可笑しい。
トラは俺に目配せすると、亡者の頭の上で背中をずずずっと伸ばした。
前足を先に出す、猫のあのポーズだ。
すると、その直後、トラの体がむくむくと大きくなり、巨大になった。
数十メートルの高さに頭が見える。
「スゴイな。ゴジラまでは行かないが、アンギラスくらいの大きさはある」
実際にはゴジラもアンギラスも見たことは無く、「映画ではその大きさだった」という話だが。
でかくなったトラは、色が一瞬で変わり、白い虎になっていた。
「なあるほど。トラは文字通り白虎の化身だったのか」
何となく納得した。
ここでもうひとつのことに気付く。
「それじゃあ、あの巫女さまは」
巫女さまの方に顔を向けると、こちらも巨大化するところだった。
ばりばりと音を立てて、ゴジラくらいに巨大になると、巫女さまは何時の間にか男の姿に変わっていた。
「女だと思っていたが、実は金剛力士みたいなヤツだったか」
えれー霊力が高いわけだな。
この辺、俺は仏教には疎いから、それが金剛力士なのか※※明王なのかは分からない。
「ま、俺が知っているのは、幾度も夢に出て来た不動明王だけだもの」
ここでハッと気付く。
「不動明王」
その言葉で「鍵」が開いた。
すかさず今度は俺の体がみりみりと大きくなった。
巨大になってみると、俺は、お寺で時々見掛ける、あの不動明王に変身していた
「こりゃいいぞ。これなら一人で一度に何万人かを救い上げることが出来る」
ま、それでもやっかいな仕事だから、お不動さまはいつも渋い顔をしているわけだな(違うか)。
トラの体毛には、一本一本に亡者がしがみついていた。
「おお。頑張ってるな。それなら俺もひと働きしないとな」
亡者をひと掴みして、ふううと息を吹きかける。
それで亡者たちが空中に吹き飛んで、そのまましゅうっと消える。
体が巨大になったから、ついさっきまでより遠くが見渡せるようになった。
ここで俺が遠くの方を眺めると、はるか遠く先にも、亡者の群集が集まっていた。
そして、その中心には、俺と同じ不動明王が立っている。
「あいつも俺と同じで、迷っている亡者を道案内しようとしているのだな」
お互い、この先も大変だぜ。
ここで覚醒。
「不動明王」はあくまで「衆生救済の意思」の象徴で、あの「人の姿」をした人格神(または神格)は存在しません。霊界にあるのは理念であって、神(ひと形の)ではありません。
不動明王は誰の心の中にもあります。
この夢は「出し惜しみせず死者の手助けをしよう」と決心したことを表しているのだろうと思います。