◎夢の話 第718夜 渡り
7日の午前4時に観た夢です。
我に返ると、目の前に男がいる。
男は俺にこう告げた。
「すぐに『渡り』が来る。俺は逃げるから、お前も早く逃げろ」
そう言うと、男はドアを開き、急いで出て行った。
「『渡り』だって?」
「渡り」なら、概ね野鳥のことだよな。鳥が飛んで来るのに、何で逃げねばならんのか。
わけが分からない。
周囲を見回すと、俺がいたのは山小屋風のロッジで、壁も床も丸太を切って作ったやつだった。いわゆるログハウスになる。
コーヒーが沸いていたから、それをゆっくりと飲んだ。
しばらくすると、外の方で「ごおおう」とも「ばたああん」ともつかぬような轟音が聞こえて来た。
最初は遠くの方だったが、次第に近づいて来る。
ここでさっきの話を思い出した。
「ん。こいつがもしや『渡り』というやつなのか」
カップをテーブルに置き、ドアを開けて外に出た。
「おお。なんだありゃ」
家は高原の上の方に建っており、四方になだらかな平原が広がっていた。その東西南北の総ての方角から、「何か」が押し寄せて来る。
「いったい何だろ」
そう言えば、さっきの男は自分独りで一目散に逃げたっけな。それなら都合の悪い相手なのか。
だが、どの方角からも来るんだから、もはや逃げようが無い。
俺は観念して、外に置いてあった椅子に腰を下ろした。
程なく『渡り』の招待が分かった。
大小様々な獣たちだった。大半がリスのような小動物だが、猫や犬、果てはサイのような大型の動物までの大群がこっちを目指して走っていた。
「うへへ。どれくらいいるんだろ」
府中競馬場が満杯になるよりもはるかに多いから、40万か50万匹。あるいはもっとかも。
ものの数分で先頭の獣が到着した。
白っぽい色の、リスをさらに小型にしたような動物だった。
肉食なら俺が骨になるまで数分だろうと思うが、しかし、肉を食っているようには見えない。
その点では少しホッとしたが、しかし、この数だ。
最初のヤツが俺の懐に飛び込むと、まさに雨のように俺の上に降って来て、すぐに空が見えなくなった。
俺はこの瞬間、神社猫のトラが俺のことを見つけて走り寄り、懐に飛び込んだ時のことを思い出した。
ここで俺は気がついた。
「こいつら。『渡り』じゃなくて、俺が目的で集まって来たのだ」
嵐のような轟音が鎮まった頃を見計らい、俺の上に積み重なった獣を避けてみると、俺の周囲には獣たちがそれこそ山になっていた。
どの獣もほとんど死に掛けか、既に死んでいるものばかりだった。
「息も絶え絶えじゃないか。なんでまた」
無意識に胸に手をやると、胸のポケットにも二十日ネズミを小型にしたような獣が沢山入っている。
「ここまで必死に走って来たのだな」
まだ生きている獣は、皆一様に俺のことを見上げている。
「なるほど。救って欲しくてここに来たのか」
そこで俺は穏やかな口調で獣たちに話し掛けた。
「恐れるな。たとえ死んでも、それで終わりになるわけではない。古い体と心を捨てれば、また新しい一生が始まる。受け入れればいいんだよ」
俺がそう言うと、獣たちは一斉に「すうう」と息を吐き、穏やかに死んで行った。
ここで覚醒。
夢自体は、煙玉のことだろうと思います。
時々、夢に観る「亡者の群れ」と同じ意味です。