日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第786夜 極楽寺

◎夢の話 第786夜 極楽寺

 12日の午前1時に観た夢です。目覚めてすぐの書き殴りなので、推敲も校正も無し。誤変換があると思います。

 

 我に返ると、馬の背に揺られ道を進んでいた。

 「俺は・・・」

 それまでの記憶が無い。

 自分の身を検めると、小袖と野袴を着て、腰には小振りの刀を差している。後ろには小さな手荷物と、鉄の棒が結わえ付けられていた。

 「俺のこのなりは」

 覚えがあるぞ。

 「これって、赤虎だな。俺は盗賊の赤虎だ」

 道端には、彼岸花が沢山咲いていた。

 

 ここで記憶が蘇る。

 この夏、この世とあの世とを隔てる門が開き、地獄の鬼や亡者たちがぞろぞろとこの世に這い出て来た。

 俺は地獄の釜の蓋を閉じるために、巫女の柊女らと一緒に怖谷に向かった。

 そこで、亡者や鬼たちと死闘を繰り広げた後に、何とか門を閉じることに成功したのだ。

 「今はその帰りというわけだな」

 さすがに体のあちこちが痛い。

 ひとの背丈の二倍はありそうな牛頭馬頭らと戦ったのだから、それも当たり前だ。

 

 もはや夕方に差し掛かっている。

 ここはまだ北郡(きたのこおり)の内で、この時期はもはやかなり冷える。

傷を得た身で、野宿をするのは、かなりしんどい。

 「どこか今宵のねぐらを探さぬとな」

 都合の良いことに、遠くに村が見えて来た。

 「よし。あそこで宿を探そう」

 

 村の中に入って行くが、離屋や厩を貸してくれそうな百姓家は見当たらぬ。

 皆、食うや食わずの暮らしをしているのだ。

 めしを出し、寝床を提供する店は町場にしかないから、ここで俺は思案した。

 「寺を探そう。そこで宿坊を貸して貰おう」

 この頃の寺は旅の者に宿坊を貸し、それなりの粥を与えてくれる。

 村はずれの道別れに着くと、木の杭が地面に立っており、それに「極楽寺」と記してあった。

 「ああ良かった。そこに行こう」

 木の杭の上には、赤とんぼが止まっていた。

 

 寺に着くと、山里の寺にしては割としっかりしたつくりで、土塀が周囲を囲んでいた。

 古城を改築して、寺にしたらしい。

声を掛けると、僧侶が迎えてくれた。

 「旅の方のための宿坊はあちらにござります」

 見ると、本堂の裏の方に七八間四方の小屋が見える。

 「食べ物はお持ちですか。ここは寺ゆえ、粗末ですが、粥ならご用意できますが」

 三十を過ぎたばかりの僧侶が、じっと俺を見ている。

 俺は懐から銭袋を出し、永銭を十枚ほど取り出し、僧侶に渡した。

 「これは心ばかりですが、お布施の足しに」

 僧侶がにっこりとほほ笑む。

 貧しい村の寺にとっては、旅人の世話をし、布施を貰うのも仕事のようなものだ。

 地元の者には、僧侶たちの暮らしを支えるほどの財力は無いから、こういう手立てをしないと、寺のやりくりが成り立たぬ。

 

 宿坊の中は板敷で、隅に筵が積み重ねてあった。

 中央には囲炉裏があり、暖を取れるようになっている。

 火を焚き、その脇に筵を敷いて寝れば、それほど寒くはなさそうだ。

 何よりも、「屋根がある」というのが重要だ。

 囲炉裏端に座り、火を眺めているうちに、俺は居眠りをしていた。

 

 「こちらです」

 その声に眼が覚めた。

 声のした方に目を向けると、俺を迎えた僧侶が、男たちを案内して中に入って来た。

 俺と同じように、ひと晩の宿を求める者たちなのだろう。

 僧侶の後ろには、ぞろぞろと十人ほどが続く。

 概ね侍のようだが、三人ほど後ろ手に縛られた者がいる。

 (ははあ。こいつらは役人で、咎人をどこかに連れて行こうとしているのだな。)

 上役と思しき男と目が合ったので、軽く会釈をする。

 目力のある、きりっとした四十男だった。

 

 「見ての通り、罪人を運ぶ途中でな。今宵はちと厄介をかける」

 男たちは土間の先で手足を洗うと、次々に中に入って来た。

 「それがしは玉山大和と申す。ちと手狭になるが、宜しく頼む」

 返事を待っているようなので、俺の方も男に返した。

 「俺は山中仙兵衛と申す者です。閉伊で馬喰を生業として居るのですが、たまたま親族の葬式がありまして」

 俺は盗賊だから、咄嗟に偽名を使ったが、なあに懐に入れていた「煎餅」をもじっただけだった。

 「なるほど」

 

 ここに僧侶が大鍋を運んで来た。僧侶は囲炉裏にその鍋を架ける。

 宿坊は通常、各々が持参した食べ物を食べるのだが、それを持たぬ者は俺のように給仕を頼むことになる。

 別の僧侶が来て、木椀と箸を置いていった。

 ここで、俺は侍のことを思い出した。

 「玉山大和さまと言えば、簑ヶ坂で蛇を倒したという、あの」

 侍が頷く。

 俺は心の中で小さく舌打ちをした。

 (よりによって、侍大将とはな。俺が誰かと言うことに気付けば、俺もあの三人の仲間にされてしまう。)

 普段なら相手が十人でもどうにかなるのだが、今は傷つき、くたびれている。

 

 だが、そんな心配は不要だった。

 俺のことを構ってはいられぬような事態が待っていたのだ。

 

 皆が一斉に粥を食べ始める。一様に腹が減っていたらしく、誰も言葉を発することなく、黙々と箸を口に運ぶ。

 元々山里で静かなのだが、誰も話さぬので、一層、その静けさが引き立った。

 しかし、すぐにその静寂が破られた。

 表門の扉をしきりに叩くせわしない音が引いたのだ。

 「助けて。早く開けてください。追われています」

 叫んでいたのは女だった。

 

 その声に誘われて、俺と侍たちが外に出る。

 すると、僧侶が奥の宿坊から出て来て、小走りで門に向かうところだった。

 僧侶が扉を開くと、女二人が転がり込んだ。

 いずれも二十五六の若い女だ。

 「早く門を閉めて。化け物に追われています」

 僧侶が問い質す。

 「化け物?化け物とは何ですか」

 僧侶はゆっくりと扉を閉め、閂を掛けた。

 

 「わたしたちは山向こうの里の者です。家に帰る途中で、化け物たちがこっちに向かって来るのに出会いました。何とも言えず不気味な姿をした者たちでした。それがあまりにも恐ろしゅうて、わたしたちは身を翻して、来た道を戻って来たのです」

 侍たちの間から声が漏れる。

 「そんなこと、あるわけないだろ」

 「何かを見間違ったんじゃないのか」

 確かに他の者には受け入れ難い話だ。

 

 だが俺は違う。

 つい前の晩まで、鬼や亡者と戦っていたのだ。

 横を向くと、もう一人、真顔の者がいる。

 玉山大和だった。

 (なるほど。こいつも化け物どもと戦ったことがある。)

 ここで大和が俺を見る。

 この侍は俺の心中を察したかのように、顎をしゃくって合図をした。

 

 その場にいた者の疑問はすぐに解けた。

 寺を囲む土塀の周りを、何者かが駆け回る足音が響いたのだ。

 「パタパタパタ」

 皆が顔を見合わせる。

 「あの音は・・・」

 最初は数人の足音だったが、二回目からはそれが数十倍になった。

バタバタバタバタ。

 男たちが色めき立つ。

 「何だあれは」

 僧侶が門扉に開いた覗き穴から外を覗き見る。

 「わあっ」

 僧侶が門扉から飛び退った。

 

 と、夢はここまで。

 目覚めた瞬間、ほっとした。

 「盗賊の赤虎」が動き出した、ということは、私自身の状態が六七年前に戻って来たということだ。

 昨年を転機にして、徐々に、この世に引き返して来たから、赤虎が躍動し始めたのだ。

 「こういうのは『書き始めろ』というサインだ」

 なら、そうしよう。

 長引く闘病生活で金欠の極みだが、ま、どうにかなるさ。

 

 ジョン・カーペンターの『要塞警察(アサルト13)』を見直したばかり。

 この監督は、『リオ・ブラボー』や『アラモ』のコンセプトを利用して、この映画を作った。

 コンセプト自体は、もはや「物語の定型句」で、一行で書ける。

 「敵味方同士だった者が、共通の敵と戦うことにより、仲間になって行く」

 いずれ短編にしたいと思っていたので、良い機会だと思う。

 きりっとした短編に出来ればそれでよし。

 

 体を起こし、声に出して呟いた。

 「俺には、『赤虎』」がいたなあ」

 本当に心強い。

 

 怖谷で地獄の蓋を閉じたのは『無情の雨』だったが、今度は極楽。

 地獄に戻れなかった鬼や亡者が、復讐のため赤虎を追い駆けて来た。

 そんな設定で行こう。

 これ一本で、ようやく盗賊の赤虎シリーズをまとめられる。