日刊早坂ノボル新聞

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◎夢の話 第624夜 同時進行夢 その1 盗賊の赤虎が百鬼夜行に出会う話

◎夢の話 第624夜 同時進行夢 その1 盗賊の赤虎が百鬼夜行に出会う話
 17日の午前4時に観た夢です。頭の表層と深層で、まったく別の2つの夢を同時進行で観ていました。

 盗賊の赤虎が奥州を馬で旅していた。 
 夕刻に差し掛かった頃、その日の寝場所を探していると、山陰に廃寺が見えた。
 「夜露をしのぐには充分だろう」
 そう考え、赤虎はその廃寺に向かうことにした。
 寺は数十年前に廃棄されたものと見え、所々で屋根が落ちている。
 それでも、雨風を避けられるだけの庇は残っていた。
 赤虎は元の本堂らしき広間に入り、そこで腰を下ろした。
 床の抜けた場所で火を焚き、暖を取る。薪はそこいら中に沢山あった。
 焚き火の火が燃え上がると、本堂の隅に人が転がっているのが見えた。
 「あれは仏さまか」
 死体であれば、そのままにして置くのも可哀想だ。
 「裏に埋めてやろう」
 赤虎が近寄ってみると、その躯はまだかろうじて生きていた。
 死体に見えたのも当たり前で、そこに居たのは、がりがりに痩せた男だった。
 「おい。しっかりせよ」
 赤虎が声を掛けると、その男が視線を向けた。
 「私の背嚢の中にお札がある。それで身を守れ。四方の柱にその札を貼るのだ。今日は新月の友引日だ。あいつらが来る」
 「あいつら?一体誰のことだ」
 「もしあいつらに捕まれば、お前は仲間にされ、永遠に苦しむ。だから四方に護符を貼り、あいつらから身を隠すのだ」
 「だから、そのあいつらとは一体何者なのだ」
 赤虎は重ねて問うたが、男は答えず、そのまま意識を失った。

 男の傍らには、言葉の通り背嚢が置かれている。
 赤虎がそれを探ると、中には呪文を書き記した護符が十数枚入っていた。
 「こんなものを貼って、どうしろと言うのだろう」
 不審に思うが、こういう時の赤虎は直感がよく働く。
 「とりあえず、言われた通りにして置くか。おそらく結界を作れと言っているのだ」
 本堂の中を見回して柱を探す。
 しかし、三方に柱はあるが、一角の柱はもはや倒れていた。
 「北の方角には柱が無い。これでは領域を閉じることが出来ぬ」
 赤虎はしばし思案した。
 すると、ちょうどその時、外の方で音が聞こえた。
 「ザ、ザ、ザ、ザ」
 それが遠くから何かが近付く足音だった。
 赤虎は廃寺を出て、道の端に立って、音のした方を望んでみた。
 すると、三丁先に松明の火が沢山見えていた。
 その灯りに照らし出された者たちの姿はと見ると、見るもおぞましい形をしている。
 烏のような頭をした男がおり、牛の角を生やした女がいる。
 そんな異形の者たちが、ざっと数千人も練り歩いていた。
 「あれは・・・。話に聞く百鬼夜行というやつか」
 あの中に取り込まれてしまうのでは、さすがに堪らない。
 赤虎は大急ぎで、寺の中に戻り、慌てて周囲を探した。
 柱の替わりに、何かを北に立て、それに護符を貼り付けようと思ったのだ。
 しかし、寺の中には木切れはあっても、手ごろな棒状の木材が見当たらない。
 「不味い。急がないと」
 もう一度、赤虎が見回すと、本道の端に倒れている男の向こう側に、杖が落ちていた。
 男が使っていたものだ。
 赤虎はそこに走り寄り、杖を掴んで中央に戻ると、床の穴に降り立ち、下の地面にその杖を突き立てた。
 大慌てで、その杖に護符を貼る。

 がやがやとわめき声がして、大勢が本堂に入って来た。
 赤虎が穴の縁から恐る恐る顔を出すと、やはりあの恐ろしい姿をした鬼たちだ。
 鬼たちは本堂の中を見回した。
 「何だか。人間の匂いがするぞ」
 「本当だ」
 「探し出して、食っちまおうか」
 十数匹の鬼がじろじろと四方を見る。
 ところが、当然、赤虎も見える筈なのに、鬼たちは赤虎を看過して別の方向に視線を移した。
 「なるほど。護符のおかげで、俺の姿が見えぬのだ」
 あの男の言った通り、護符には効き目があった。

 「ああ、居た居た」
 鬼の一匹が声を上げる。
 赤虎は一瞬肝を潰したが、鬼が見ているのは赤虎ではなかった。
 あの男のことを見ているのだ。
 「しまった。あの男のことを結界の中に入れる暇が無かった」
 護符の囲んだ領域から、男の体は外れていたのだ。

 鬼たちは一斉に男の許に走り寄った。
 「なんだ。がりがりじゃないか。これでは食っても美味くない」
 「仕方ない。では決まりどおり仲間にしよう。今日は友引日なんだしな」
 「ま、見逃してしまわず良かったな。俺たちに会い、その夜を越せた奴には幸運が舞い込む。俺たちは飢えに苦しみ、夜毎こうやって彷徨っているのに、その運気を吸い取られたのでは腹が立つ」
 赤虎は男のことを気の毒に思ったが、しかし、今となっては致し方ない。
 何が起きるのかを見るために、再び、穴から顔を出してみた。

 すると、床に寝転んでいた男が、突然、ぴょんと跳ね起きた。
 周りの鬼たちがそれを見てはやし立てる。
 「おお、早いな。もう触手を生やしている。もう俺たちの仲間だ」
 男の両腕は蜘蛛の腕の先のようなかたちに変じていた。
 その男が口を開く。
 「おい。さっきはここに男が居た。頑丈な大男だ。食ったらさぞ美味かろうぞ」
 男は首を大きく回して、本堂の中をじろじろと見た。
 「畜生。逃げられたか。残念だ」
 ここで鬼たちは、再びぞろぞろと寺の外に出て行く。
 「早く行こう。隊列から外れると、きついお仕置きがあるからな」
 わやわやと声を上げて、鬼たちは外に出て行った。

 赤虎は「何があってもこの場を動くまい」と決め、穴の底に座った。
 長い長い時間が経ち、ようやく外が明るくなって来る。
 赤虎は念のため、さらに本堂が隅々まで明るくなるまで待ってから外に出た。
 寺の外に出ると、そこはいつもと何ら変わらぬ山の中である。
 赤虎は青空に向かって両手を突き上げ、大きく伸びをした。
 「ありゃ」
 思わず鳩尾の辺りを探る。
 このところ赤虎は胃の辺りに痛みを感じることが多く、実際、上から触ってみると鳩尾には硬いしこりがあった。
 この時、赤虎の腹からは、異常がすっかり消えていた。
 ここで覚醒。