◎夢の話 第995夜 五箇門山の鬼
二日前に観た夢です。
恐らく「盗賊の赤虎」のストーリーを思い描いていたと思う。
登場人物に名前が無かったので、赤虎のそれを当て嵌めた。
囲炉裏に腰掛け、炭火を眺めている。
俺は赤黒いその光と炭が焦げる匂いが好きだ。
子どもの頃を思い出す。
そこに手下の一人が駆け込んで来た。
「お頭。お蓮さまが攫われました」
「何だと」
蓮は俺の妹だ。二年前に道で俺の前に立ちはだかり、「飢えた妹のために己を売る」と叫んだ。俺はその十歳の娘のことを気に入り、以後は「妹」として育てていた。
蓮の妹の方はまだ小さいから、俺が懇意にする寺に預けている。
「町に出掛けた折に、どうやら後を尾けられていたと見え、町外れで攫われたとのことです」
「護衛はどうしたのだ」
「三人とも散々に殴られたようです。仔細を見ていた供の女子が直ちに駆け戻って来ました」
「如何様な相手だ」
「それが・・・。どうやら侍たちのようです」
「こちらの一行が盗賊の仲間だと知っていたなら、手下どもを捕縛する。人攫いなら、盗賊のことは襲わぬ。なら、蓮が俺の義妹で、俺が大切にしていることを知る者だ。そいつらは俺に用事があるのだ。して、どっちに向かったのだ?」
「三本松城にござります」
その城の主は、一年前に城と領地を手に入れた者だ。元の主の家臣だったが、その主を追い出し、自らが情趣の座に座ったのだ。名を山喜高安という。元の主の方は三本松左膳という名だ。
俺はここで思案した。
「そのご領主殿がこの俺に何の用だ」
盗人の頭領に侍が用事とは。
俺はここで腰を上げた。
「ま、行けば分かる。さて、皆を集めろ」
「しかし、相手は侍です。その城に乗り込んだら」
戦闘になる。こいつはそう言いたいわけだ。
「俺に用事があるから蓮を浚ったのだ。捕縛したり危害を加えたりすることが狙いなら、手下どもをそうして居る。まあ、何もせず、俺を迎え入れるだろう」
今、俺の根城の近くにいた手下は五十人だった。
俺は手下どもを率い、三本松城に向かった。
三本松城は山城で、高い山の頂にある。参道を上って行けば、上から狙われやすいのだが、委細構わず前に進む。
やはり、侍共は攻撃して来なかった。
大手門に着くと、役人の一人が門裏の櫓の上から声を掛けて来た。
「もおし。きさまは赤虎か」
「見ての通りだ。これが侍に見えるのか」
「では、赤虎。お前だけ中に入れ」
すると、横から俺の腹心の惣右衛門が声を発した。
「なりませぬぞ。これは罠かもしれません」
俺は笑って、爺を制止した。
「大丈夫だ。何事も起こらぬ。お前らはこの門で待って居るがよい」
そして俺はすぐさま侍に返答した。
「よおし。分かった。俺一人で入ろう。だが、この門は開けたままにして貰うぞ。もし何か魂胆があるなら、俺の手下がこの城を焼き払うからな」
「勿論だ。我が方はぬしに危害を加える積りはない。入れ」
俺は手下を大手門に残し、城の中に入った。
侍は俺を山水の間に案内し、「そこで待て」と言い残した。
山水の間は接見用の部屋で、およそ三間四方の広さだ。
程なくその部屋に男が入って来た。
疑いなく山喜高安だろう。
高安が口を開く前に、俺の方からこの件を問い質す。
「これは何のつもりだ」
高安は「うむ」と言い、少しく間を置いた。
「実はぬしに頼みたいことがあるのだ」
「ものを頼むやり口がこれなのか」
「侍が頼んだとて、ぬしは引き受けんだろう。そうだな」
それもそうだ。日頃は敵として対峙しているのに、「頼む」と言われたところで応じる訳がない。
「もしぬしがこの件をやり終えたら、わしはぬしに銀二十枚と銭を十貫文やろう。破格の扱いだぞ」
「だが、この件を引き受けなかったり、頼みごとを達成できなかったら、蓮を殺す。そういうことだな」
「そうだ。しくじりは許されぬ」
まずは状況を確かめねば始まらない。俺はとりあえず話を聞くことにした。
「どんな用件だ」
高安は俺の眼を見ながら依頼の内容を離し始めた。
「ここから五十里先に五箇門山がある。これは承知しておるな」
「ああ。曰くつきの山だ」
その山には頂に上る途中に五つの門がある。各々の門には鬼が棲んでおり、けして上に上れぬようになっている。山頂の神殿を守るためだ。
神殿には、門外不出の文書が仕舞ってある。天地の神を動かすための起請文だ。
「その五つの門を破り、人が通れるようにして欲しいのだ」
「おいおい。相手は鬼だということになるぞ。それを俺たちが倒すのか」
「いや。山頂に上るのは数人だけだ。道が細いから縦にしか並べぬ。大勢が従えば、敵が気付き、上から岩を落とす。ぎりぎりまで一人二人で進むしかないのだ。それに」
「何だ」
「門番は鬼ではなく人だ。鬼が守っているのではのう、武芸者が守って居るのだ。これで少しは楽になっただろう」
この高安は明らかに隠し事をしている。だが、俺は応じることにした。
「ああ。分かった。相手が人なら、どんな奴でも構わぬ。五人を倒せばよいのだな」
あっさりと俺が応じるので、高安は少し意外そうな表情をした。
「受けてくれるのか」
「ああ。支度を揃えて貰えば。すぐにでも行こう」
「では一刻のうちに取り揃えさせる」
そこで俺は控えの間に移され、そこで待機することになった。
もちろん、俺には山喜高安に従う気など毛頭ない。話を早く終わらせたいだけだ。
そして、その話の終わらせ方とは、「山喜高安を殺して、蓮を救い出す」ことだ。
侍の依頼など知ったことか。
そこで、俺はすぐさま部屋を抜け出し、高安の寝所に向かった。
幸い、家来どもは、大手門の俺の手下の方に気が向いている。城の中は警備の者が手薄だった。
寝所に近づき、様子を窺う。板戸が一尺ほど開いたままだったから、それを静かに押し開き、中に侵入した。
灯りは三間先の燭台にひとつだけで中がよく見えぬが、五六人の男女がいるようだ。
この中に高安がいる筈だから、そいつを捻って、蓮の居場所を確かめ、首を折ってやるだけだ。
だが、俺はそこで意外なものに直面した。
部屋の者たちがいずれも「おいおい」と声を上げて泣き叫んでいたのだ。
「なんだこれは。一体どうなっているのだ」
この時、俺の背後から声を掛けて来る者がいた。
「山喜高安殿は、赤虎殿とまったく同じ境遇なのだ」
すぐに俺はその場から跳び、そこで身構えた。
「誰だ。お前は」
すると、男がゆっくりと姿を現わした。
前の方では、物音に気付いたのか、山喜高安が灯りを持って歩み寄っていた。
その灯りに、男の顔が照らし出される。
「それがしは天魔源左衛門と申す。高安殿の奥方さまは、わが主、七戸彦九郎さまの妹御なのだ」
天魔と言えば、奥州に名高い乱破の一族だった。
ここに山喜高安が近寄った。
「赤虎。隠し事をして済まなかった。実は五歳になるわしの娘が三本松左膳に攫われてな。五箇門山の神殿に匿い、わしに来いと申して来たのだ。わしが参れば、わしも娘も殺される。もし侍の姿を見れば、娘が殺される。左膳の狙いは、わしへの復讐と、この地を取り戻すことだからな」
と、ここで覚醒。
覚醒したが、この先のイメ-ジもきちんと残っている。
すぐに「これって、『死亡遊戯』だな」と思う。
あるいは、西部劇の攻めパターンだ。
西部劇の定番には『アラモ』やその系列の『要塞警察(アサルト13)』みたいな「守りパターン」もあれば、堅固な砦を如何に攻めるか、といった「攻めパターン」もある。
アクション映画などは、いずれも系統的に二つに分類出来る。
五つの門にいる武芸者はいずれも個性が強いのだが(『死亡遊戯』に同じ)、中には本物の女鬼が混じっている。
盗賊の赤虎は天魔源左衛門の補助を得ながら、一人ずつ倒して行く。
やはり考えていて、最も楽しいのは、侍の話ではなく「盗賊の赤虎」の話だ。
自分自身がアウトサイダーだからだと思う。
書き殴りで、推敲や校正をしていません。
いずれ物語にするかもしれないし、あるいは寝かせておくかも。