日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎ 夢の話 第488夜 山門下で

夢の話 第488夜 山門下で

目を開くと、オレは坂道に立っていた。
ごく緩い坂で、左右には屋台が並んでいる。菓子や乾き蕎麦など、土産物を売る屋台だ。
「ここはどこだろ」
通りは賑やかで、神社やお寺の前、いわゆる門前町の雰囲気だった。
上を見上げると、空が真っ青だ。秋口に見られるような空の感じだな。

ここで、オレは自分自身のことを確かめた。
「学生服を着ている」
ってことは、オレは17歳か18歳くらいか。
何をすればよいかが分からず、ただその場に立っていると、坂の下の方から人が上がって来た。
セーラー服を着た女の子だった。
オレはその子の顔に見覚えがあった。
確か1度だけ会ったことがある。
友だち仲間で縁日に出掛けた際に、知り合いのさらに知り合いの、そのまた妹。
そんな子だったような記憶がある。
「何十年も経っているのに」
(「ははん。オレは今、夢を観ているんだな」。頭のどこかでそう考えている。)

女の子が近付く。
オレのことに気付き、その子がにっこりと笑った。
オレの目の前に立つと、その子はスカートのポケットに手を入れ、何かを取り出した。
その子が手を広げると、そこには十円玉が沢山載っていた。
「決着を付けようよ」
顎の先をほんの少し動かした先には、5、6台の遊具機が置かれていた。
今で言うガチャポンの前身みたいな抽選機で、十円を入れて回すとガムが出る。
しかし、時々、ガムの代わりに木札が出て、それが出ると、景品がもらえるのだ。

そう言えば、そんなこともあったっけな。
八幡様の境内で、抽選機に熱中したっけな。
あの時に景品を争ったのが、その女の子だった。
「よっしゃ。じゃあ、パンダを出せれば勝ちだからね」
「うん」
十円玉を入れ、がらがらと回す。がっしゃーんと意外に大きな音がして、ガムが出た。
「やはりそう簡単じゃないよね」
「いいじゃん。どこに行くわけでもないんだもの。じゃあ、次はオレの番」
がらがら、がっしゃーん。

風の便りに、その子の消息を聞いたことがある。
「確か、若いうちに病気になり、長く苦しんでいるはずだったよな」
今はどうしているんだろ。
ハンドルを回すその子の表情が真剣だ。

オレは独りごとのように呟いた。
「生きてりゃ、何がしか楽しいことを見つけられる。まだ死ぬなよな」
すると、女の子がオレの方に顔を向けた。
「なあに。何か言った?今は忙しいから、声を掛けないでね」
はは。それでいい。その調子だよ。
 その子の若くてはつらつとした笑顔が眩しい。
 
遠くの方で、とんとんとお祭りの太鼓の音が響く。
目の前で、幾度となく抽選機が回される。
がらがら、がっしゃーん。

ここで覚醒。

夢の規則の通り、最初に出て来る異性は自分自身の分身のようです。
「まだ頑張れよな」と自分を励ましているわけです。