◎夢の話 第489夜 誰かが見ている
22日の夕食後に、居間で眠り込んでしまいました。
これはその時に観たコテコテの悪夢です。
悪夢を観るのは体調の悪い時なのですが、すっかりまた元通りです。
夢の中の「オレ」は「シン※※」とかいう名前。例えば「シンジ」みたいな名だ。
二十歳台で何かの仕事をしているが、はっきりとは分からない。
気が付くと、オレは電車の中だ。
吊り革を握って、オレはつらつらと考え事をしている。
外は良い陽気なのに、毎日、仕事に追われているなんて嫌だな、とかナントカ、とりとめのないことを考えていた。
車内はまばらで、全部合計しても客は十数人しかいない。
座ろうと思えば座れるわけだが、あえてオレは立っている。
立った方が、外の景色が良く見えるからだ。
別に特別な意味は無いが、「はあ」と度々ため息を吐く。
オレが下りる駅は、まだしばらく先だった。
そのうちに、ふと誰かの視線を感じた。
車内の誰かが、オレのことを見ているのだ。
「見られている」
気配のする方に顔を向けるが、皆、素知らぬ顔をしている。
「おかしいな」
視線を感じるのは、オレの左側からだ。
そっち側には、男が2人と女が4人いる。
皆、椅子に座って、黙って前を見ていた。
「気のせいなのか」
ここでオレは、子どもの頃のことを思い出した。
親戚の葬式の時に、そこの家に行った。
オレはまだ小学4年だ。
大人は皆忙しく立ち働いていたので、子どもはその家のひと部屋に集められた。
と言っても、そこに居たのはオレともう一人、1年生くらいの女の子の2人だけだった。
大人は何も言わなかったが、もちろん、その子の面倒を見る必要がある。
齢が上なのだから当たり前だが、それがオレは嫌だった。
「放っておこう」
その子を部屋に置き去りにして、オレは家の裏庭の方に出た。
大広間の方では、法事が行われているから、反対側の方角だ。
そこの家の裏庭には池があり、沢山の鯉が飼われている。
その鯉を眺めていれば、退屈しないで済む。
鯉が口をパクパクするのを眺めていると、何となく誰かに観られているような気がした。
後ろを振り返るが、誰もいない。
「おかしいぞ」
また、前に向き直る。
だが、やはり誰かが見ていた。
そこで、オレは何気なく鼻歌をそらんじながら、考え事をしているふりをした。
頃合いを見計らって、パッと振り返ると、柱の陰から女の子が覗いていた。
「なあんだ。あの子か」
あの部屋にいた女の子が、オレの後を尾(つ)けていたのだ。
「まあ、独りきりじゃあ退屈だし、怖いからな」
その時に感じたのと、今は同じような視線がオレのことを追っていた。
「一体、誰なんだろうな」
男はいずれも中年で、仕事の途中のようだ。
女は主婦然としてるのが2人で、若いのが2人。
いずれも、オレとは逆の方を見ている。
「やっぱり気のせいか」
自意識過剰かもしれん。
ここでオレは、ついさっきまでの考え事の続きをすることにした。
明日は出張で、今日の内に納めて置かねばならない仕事がある。
今日は夜中までかかりそうだよな。
ところが、また誰かの視線がこっちに向けられている。
今度ははっきりとその方角が分かった。
車内のその方向には、十胆茲肪砲1人と女が2人。
そのうちの1人がオレを観察しているのだ。
そこで、なるべく眼を向けないようにして、感覚を集中し、誰が見ているのかを確かめることにした。
オヤジ1人は、居眠りをしており、舟を漕いでいる。こいつは除外。
すると、残りは2人だ。
1人は30台後半の主婦で、これからどこかに行くらしい。たぶん、街の方に買い物に出るのだな。
もう1人は二十幾つかくらいの体型で、たぶん、オレとは齢が違わない。
しかし、半身を向こう側に向けており、どんな表情なのかを窺い知ることが出来なかった。
「うーん。どっちなんだろ」
考えているうちに、オレの降りる駅に着いた。
ドアが開く。
その開いた扉から出ようとすると、若い女がオレより先にそこから出た。
その女の背中を見ているうちに、オレは、さっきの視線の主がその女だってことに気が付いた。
「だって、オレはこの女をしょっちゅう見ているものな」
それも、間違いなく偶然じゃない。
これまで気が付かなかったが、通勤の行き帰りや、出先に向かう時など、必ず同じ女に出会っていた。
この女はオレに付きまとって、逐一、オレのことを観察しているのだ。
「この女。ストーカーかよ」
絶対に間違いない。このワンピースとは幾度もすれ違っている。
この女はオレからつかず離れずの所に居て、オレのことをじっと見ているのだ。
オレは我慢しきれなくなり、小走りで女に近付いた。
女に手が届くところまで近寄ったとところで、オレは背中から声を掛けた。
「ねえ、アンタ。あんたはどうしてオレのことを尾けてるの?」
ああ。声を掛けるのなんて、やめとけば良かった。
だって、女がオレの方に振り返ると、その女には顔が付いていなかったのだ。
オレは思わず声を上げた。
「うわ」
すると、女はけたたましい声で「アハハハ」と笑った。
ここでオレは気が付いた。
「これは現実の世界じゃない。オレはまだこの世とあの世の間を彷徨っているのだ」
そう言えば、電車を乗り降りするところは憶えているが、その他の記憶がよく思い出せなくなっている。
オレはこの電車から降りて、女に声を掛けるところまでを、何百回も繰り返しているのだった。
ここで覚醒。
目が覚めて、最初に頭に浮かんだことは、「あの女には口が付いていないのに、どうやって声が出せるのだろう」でした。
この話は少し脚色して、「縞女」に加えることにします。
しかし、相変わらず体調がスキッとせず、万事が捗りません。何時になったら終われるのでしょうか。
1日に仕える時間があまりにも限られており、さすがに気落ちしてしまいます。
まあ、ゆっくりでも1歩1歩進むことを心掛けていれば、先は見えて来るだろうとは思います。