日刊早坂ノボル新聞

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◎夢の話 第607夜 「お迎え」の回避

◎夢の話 第607夜 「お迎え」の回避
 11日の午後11時に観た夢です。

 「ズシーン」「ズシーン」
 演習場で大砲でも撃っているのか。
 目を覚まし、ベッドの上に半身を起こして座った。
 周りを見回すと、オレが居たのは病院の個室で、四方が白い壁だった。
 「なんだ。オレの心臓の音だったか。また入院したんだな」
 不整脈が酷くなると、心臓の音が全身を震わすように響くものだ。
 鼓動の度に「ズシーン」と体が揺れる。
 ここまで来ると、かなり症状が進んでいる。
 まあ、オレの病状が回復することはないので、いずれ心臓がうまく動かなくなる。
 これもそういうことだろう。
 治療は医師の仕事だが、オレは何をすればいいのか。
「今度お迎えが来たら、どうやって避ければ良いのだろ」
 ここで思い出したのは、金太郎さんの話だ
 金太郎さんは、母の生家の分家のオヤジさんだ。
 金太郎さんは末期癌で、全身に癌が転移し、ついに自宅療養を許される時期が来たので、家で寝ていた。
 家の者は仕事に出ており、家の中には金太郎さん一人しか居ない。
 そこへ足音が聞こえ、男が入って来た。
 金太郎さんは一瞥で、その男がこの世の者ではないと気付いた。
 妙に青黒い顔をしているし、血の通った生き物の気配がまったくない。
 (こいつはお迎えだ。)
 金太郎さんは、そう確信した。
 そこで、その男が口を開く前に、金太郎さんの方が男に告げた
 「まだ逝くべき時ではありません。俺は行きませんから」
 男は機先を制せられ、そのまま背中を向けて、家から出て行った。
 金太郎さんは、「あとひと月もてば」という状態だったが、それから1年半くらい生きた。

 「2回目の時はうまく行かなかったんだな。どうしてだろう」
 前に1度経験があるから、2回目だって対処できそうなもんだが・・・。
 すぐに気が付いた。
 「なるほど。見知らぬ男が勝手に家の中に入って来たのなら、誰でも警戒する。しかし」
 それが、知った顔だったらどうだろう。
 既に亡くなった親族、父母とか、夫か妻が現れたら。
 その人が「自分と一緒に行きましょう」と誘ったら。
 つい、その人に尾いて行くかもしれない。

 しかし、「お迎え」のシステムは理屈に合わない。
 あの世に行った霊は、二度と個霊に変じることはない筈なのに、なぜ人の姿をしているのだろう。
 もしや、幽界の霊か。しかし、それは「まだあの世に行けていない」ということだから、そんなのに尾いて行くのは不味いだろ。
 あるいは、便宜的に人の姿を借りているのかもしれんし、死に行く者が作り出している像なのかもしれん。
 「できれば、瀕死の者が作り出しているイメージであってくれ」
 人の頭が作ったものなら、対処のしようがあるからだ。

 「さて、オレ自身はどうだっただろ」
 オレのところにも「お迎え」が来たことがある。
 あれは一昨年の12月だ。
 心臓の手術を2回行い、オレはひと月半くらい入院していた。
 ベッドに座って、考え事をしていたら、唐突にカーテンが開いたのだ。
 現れたのは、2人の男で、一人はハンチング帽を被っていた。
 顔つきは、普通のオヤジだが、やっぱり妙に青黒くて、薄気味悪い。
 「コイツは死神だ」
 一瞬でその考えに行き着いた。
 「来るな」「近くに来たら、ぶち殺す」
 そう叫ぶ一方で、頭のどこかで「こいつらを殺そうにも、土台、生きては居ないよな」と冷静に考えていた。
 2人はオレを捕まえようと、ベッドサイドに来ようとしたが、俺のベッドの周りには透明な壁があり、近くには寄れなかった。
 ハンチングの方が小さく舌打ちをすると、2人は背中を向けて立ち去ったのだ。

 「あのアクリル板のような壁も不思議だよな」
 あれは水族館で見るような厚い壁だった。
 まあ、オレの場合は、「まだその時ではなかった」ような気もするが・・・。
 ここでオレはサイドテーブルの時計に目を遣った。
 「12月4日午後7時か」
 前回、あの経験をしたのは12月10日くらいだったな。
 時計の隣にはスマホが置いてある。
 オレはそれを手に取り、カバーを開いた。
 「おお。何だこりゃ」
 初期画面に表示されたのは、「2015年12月4日」という日付だ。
 「おいおい。これは一昨年、オレが手術を受けた直後の日時じゃないか」

 ここでオレは手を止めて考えた。
 「人は物質世界の中で暮らしているけれど、魂の活動は別の次元で並行して行われている。そっちの方では時間というものに意味はない」
 ということは、もしかして「今」は「一昨年の今」ということなのか。
 この辺、描写が難しい。
 「今」というものは、常に「今」だ。過去も現在も未来も関係なく、常に「今」しか存在しない。自意識は「今」の中にしかない。
 未来はただの想像で、過去はただの記憶でしかなく、「今」にとってみれば、存在したかどうか定かではない。
 「ってことは、2015年の今と、2017年の今とは、繋がっているのかもしれんな」
 ありえなくも無い話だ。

 ここでオレはスマホを手に取り、息子に電話をすることにした。
 息子が出ると、すぐに頼みごとを告げる。
 「明日の朝。すぐにアクリル板を注文してくれ。15センチくらいの厚さのあるヤツだ。とりあえず縦が2メートル、横が1.5メートルくらいのものでよい。これは父さんが会社を知っているから、そこに連絡して『すぐにくれ』と言うのだぞ」
 ちょうどその時、病室のドアが開き、看護師が顔を出した。
 オレはすかさずスマホを切り、看護師に言った。
 「すいませんが、病室を大部屋に移してください。なるべく窓側のベッドが良いです。入り口の方に重篤な患者がいればもっと良いですね」

 オレはあの時、何故、透明な壁がオレを守ってくれたのかを悟った。
 あれは、オレが死神に連れて行かれないように、オレ自身がそこに置いたのだ。
 しかし、死神だって務めがあるのだから、手ぶらで帰るわけには行かない。
 入り口近くに、死に掛けの患者が居れば、オレの代わりにそいつを連れて行ける。
 「なるほど。総てが繋がっているわけだ」
 ここでオレは安心し、ゆっくり眠るために体を伸ばした。
 ここで覚醒。