日刊早坂ノボル新聞

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◎この人のここがスゴい:『隠し砦の三悪人』に出てくる下女役の人(たぶん樋口年子さん)

◎この人のここがスゴい:『隠し砦の三悪人』に出てくる下女役の人(たぶん樋口年子さん)

 やるべき事が山積しているのに、BSでこの映画を流していたので、ばっちり観てしまった。
 もう百回は観ているから、細かいところまで憶えているが、それでも観てしまう。
 場面場面での見所が沢山あるからだ。

 三船さんの騎乗は、ため息が出るほどもの凄い。
 馬上で背筋を立て、刀を構えたまま走るところとか。
 馬に跨った経験のある人なら分かると思うが、屈まないと前に飛び出しそうになる。

 三船さんは総ての騎乗場面を全部自分で演じたそうだ。
 圧巻は最後の場面で、敵の関所から逃げ出す際に、馬を走らせつつ、下女(役上では「百姓娘」)の片腕を掴み、後ろに引っ張り上げる。
 その時の三船さんのスタントも凄いが、娘も凄い。ひとつ間違えると、命に関わるような演技だ。

 もちろん、この場面だけはスタントマンを使っていそう。
 でも、女性だったし、監督が黒澤明だもの。ひょっとすると、本人が演じていたかも知れん。
 この場面を除いても、要所要所で「娘」は重要な役を演じている。

 娘は飯盛り女だった境遇から雪姫に救って貰ったのだが、自ら志願して、一行に付いて来る。
 三船さんが「お前は帰れ」と言い付けるのに、頑なに一行に付いて来ようとする。
 その時の背中だけの演技が凄い。
 いやいやをする仕草の見事なこと。
 この女優さんはオーディションで選ばれた人だから、まったくの素人だったが、それをあそこまで仕込むのだから、監督も半端無い。

 脇役だが、樋口さんは色んな映画に顔を出していた。
 どこか「観たことがある」と思うのは、怪獣映画にも出ていたからだろう。
 この映画をきっかけに、女優の道が開けたのだから、やはり見る人は見ている。
 しかし、樋口さんは39歳で亡くなったらしい。
 その齢では早すぎるし、悔いが残っただろうが、しかし、今も映画の中に姿を留めている。
 生きた証がきっちり残っていて、今も人の心に感動を与えてくれる。

 ところで、高校生の時に初めてこの映画を観て、雪姫役の上原美佐さんの美貌にひれ伏した。
 モノクロ仕様の化粧をしているので、舞台で観る役者さんみたいだが、街を歩いていれば、群衆の中でもオーラを発していただろうと思う。
 雪姫が横になって眠っているシーンでも、ただそれだけで泣けて来る。
 きれいすぎるからだ。
 吉永小百合さん以降は、こういう感じの女優さんは絶滅してしまった。

 初めて観てから数十年が経ったが、今も雪姫は憧れの女性像だ。
 当方の書く物語にも、「雪」「ユキ」という名前の女性が出て来るが、総てこの「雪姫」のイメージから来たものだ。
 自分なりの「雪姫」を作り出そうと思うが、まだ全然近づけない。

 上原さんはわずか2、3年の間に何本かの映画を残し、「私には向いていない」と言い残して銀幕を去った。
 そのお陰で、雪姫がバーサンになった姿をまったく想像できない。

 後段はやっぱり雪姫の話になってしまった。やはり憧れの女性像だということだ。