日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第69夜 死にゆく人々

夢の中は○年後の世界です。

2007年の日本では、毎年の自殺者は3万人前後ですが、この時代では60万人くらいに達しており、死因の第1位になってます。

東京のターミナル駅から1駅のZ駅は自殺の名所で、朝夕の通過電車に飛び込む人が後を絶ちません。とりわけ、この数年は急増しており、一昨年は3千人、昨年は4千人がこの駅で死を選んでいます。
毎日十数人がプラットホームから姿を消しているのです。
1つのトレンドとして、将来に絶望する人がこの駅を目指して集まるようになってきたのでした。

政府が着目したのは、第1に電車の遅延問題で、相次ぐ人身事故のためダイヤが滅茶苦茶の状態です。
鉄道会社に改善命令が何度も出されました。
しかし、突然線路に飛び込む人を事前に見極めるのは、事実上、不可能です。
業を煮やした鉄道会社の選択は、「ショベル列車の導入」で、これは先頭にショベルが付き、半ばで散水、後部で消毒するというものでした。
駅構内には広く路側溝が敷かれ、回収できない「仏」はそこに集められるようになってます。
回収車で集められた人々はそのまま火葬場に運ばれ、集団墓地に納骨されます。

人道としてこのようなやり方は許されるのかという議論も巻き起こったのですが、その時代では既に「自殺法」が制定されており、申告すれば6ヵ月後に合法的に自殺させてもらえるようになっています。
6ヶ月待てば薬物で処置してくれるのに、なぜその駅に向かうのか。
絶望した人にとっては、「死にたいのは今、この時」だからということです。

ショベル列車の導入の後、列車の遅延は著しく改善され、交通はスムーズになりました。
人身事故の増加がニュースにならない日々が続きます。

ある早朝に、電話が鳴ります。
「取材に行ってくれないか。Z駅では今やすごいことになっているらしい」
企画担当のSからの連絡でした。私は大学院に通う傍ら、内職でルポルタージュを書いていたのです。
急いでバイクに乗り、Z駅に向かいました。

駅に近づいてみると、構内に上る階段は長蛇の列で、じりじりとしか進んでいませんでした。
(この駅、こんなに利用客が多かったっけ?)
遠くプラットホームを眺めると、そこにも何百人、何千人の人々が佇んでいました。
人がたくさんいるのに、雑踏や話し声は全く聞こえず、異様なほど静かです。

駅の構内には入れないので、線路脇の金網から覗き込みますが、路側溝の周囲にフェンスが張り巡らされているせいで内部はよく見えません。
気がついてみると、私の周囲には駅の状況を見ようとする人々が、私と同じように貼り付いていました。

遠く150m先のプラットホームには、点字ブロックの黄色い線に沿って、人が何列も並んでいるのが見えます。
誰1人として言葉を交わさず、ただ自分の前の線路を見据えています。

「電車が来るよ」
隣の誰かが呟きます。

構内に電車が入ってくると、最前列の人々がドミノ倒しのように倒れていきます。
人々は線路に吸い込まれるように消えていきました。
最前列がいなくなると、後ろの列が一歩前に出て、再び整然と並びます。

数分後、ショベル列車が到着し、除去、清掃に掛かりますが、ゆっくりと通り過ぎるだけで障害物は無くなるようです。
ショベル列車では死ねないので、この間、ホームの人々は列車の通過を黙って見ていました。

「凄まじすぎるな、この光景は」
何百人もが一斉に飛び降りるさまを直視し、何とも言えない虚脱感を感じます。
「なんでこんなことになったんだろう」

前に立っていた男が振り向き、私の独白に答えました。
「そりゃね。この国の将来にもう誰も期待していないってことだよ」

ここで覚醒。
参院選の翌日に見た夢でした。