日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第673夜 列車

◎夢の話 第673夜 列車
 3日の午前4時に観た夢です。

 同級生のMはとにかくよく飲む男で、飲む度に深夜になる。
 この日も遅くまで飲み、結局、終電に飛び乗った。
 「間に合って良かったな」
 隣の男が言う。こっちは一緒に飲んでいたTだった。
 「こんなに遅くなったのはMのせいだ。あいつは何処にいるの?」
 「Mはひとつ前の駅で降りたよ」
 おいおい。あいつはそんな近くに住んでいたのか。
 音が変わり、列車が次の駅の構内に走り込む。
 「ここって何ていう駅だろうな」
 思い出せない。
 いつも通っている筈なのに、駅の様子にも見覚えがない。
 「確か▲ガ谷じゃなかったか」
 まるで、自分が夢の中にいるかのような心許無さだ。

 「少し飲み過ぎたか」
 前の椅子に座っていた人が降りたので、俺はその席に座った。
 端っこの席でドアの近く。右側は格子なので、そっちに寄り掛かる。
 座った途端にうつらうつらする。
 暫くすると、口の中が気持ち悪くなって来た。
 酒を飲み過ぎた時の甘ったるい感じがどうにも堪らない。
 胸ポケットを探ると、小瓶が入っていたので引き抜くと、それは※ステリンだった。
 この時の俺は少し寝ぼけていたらしい。
 すぐにそれを少し口に含む。
 でも、直ちに気がついた。
 「ここは電車だから、出せないじゃんか」
 困ったな。

 すると、向かい側の席に座っていた若い女が、徐にハンドバッグからカップと歯ブラシを取り出して、歯を磨き始めた。
 おいおい。電車の中で「平然と着替えをする女子高生」なら幾度か見たことがあるが、「歯を磨く女」は始めてだ。
 周りの人がそれに気付き、少しざわつく。
 皆がそっちを見ている隙に、俺はドアの近くに※ステリンを吐き出した。

 「あれ。Tはどこに行ったんだろ」
 Tの姿が見えない。
 そもそもこの電車では、Tの家の方には行けないはずだが、何であいつはこれに乗ったんだろ。
 「でも、俺はどこで降りればいいんだろうな」
 前にこんなことがあったよな。

 寝過ごして、慌てて駅に降りたら、駅の前が真っ暗だった。
 眼を凝らして見ると、遠くのほうに卒塔婆が見える。
 駅前に墓地があるのだ。と言うより、墓地しかない。
 俺はそれから人気のない線路沿いの道を十キロ以上歩いて戻ったんだっけな。
 確か長女が生まれた後のことだ。
 俺は学生のはずだが、何故か自分に妻と子がいる気分になっている。
 「確か。俺のアパートはクニタチとかタチカワにあるんじゃなかったか」
 後で思い出したが、正確にはミタカだった。

 ガタンゴトンと列車が揺れる。
 たぶん、駅はまだかなり先のはずだ。
 腕を組んで、再び居眠りを始める。
 列車が揺れて、俺は目を覚ました。
 車両の中が薄暗い。
 周囲を見回すと、客が一人もいなかった。
 「ありゃ。大丈夫か」
 立ち上がり、車両の前の方に歩く。
 すると、前の車両にも客が一人もいなかった。
 「気持ち悪いなあ。列車の中に俺一人かよ」
 前の車両に移り、その前の車両に向かった。
 そっちの車両にも、客が乗っていなかった。

 「もしかして、今この列車には俺一人しか乗っていないんじゃないか」
 とにかく不安になる。
 バスなら当たり前の景色だが、列車なら、かなり田舎の線でないと滅多にない。
 「このまま一番前の車両に行き、運転席を覗いてみたら、そこにもやっぱり誰もいなかったりしてな」
 『トワイライトゾーン』っていう昔のテレビにありそうな展開だ。目が覚めると家の中には自分だけ。外に出てみると、街の中に自分一人しかいなかった、てな展開だ。
 遠く前の方を望むと、列車のフロントガラスが見える。その先は漆黒の闇だった。
 列車の中に「自分独りしかいない」という思いが、確信に近くなる。
 俺は運転手さえもいない列車に一人で乗っていたのだ。
 
 ここで俺は我に返った。
 「でも、本当は昔からこうだったんじゃないか」
 人は皆、一人きりで列車に乗り続けているのだ。
 何となく納得する。
 ここで覚醒。

 終着駅が近くなって着ました。
 列車を降りてから、「そこから一体何処に行けばいいんだろ」と少しく考え込みました。