日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第674夜 百鬼夜行

◎夢の話 第674夜 百鬼夜行
 3日の午後3時の午睡時に観た夢です。

 瞼を開くと、俺は道を歩いていた。
 田園地帯の中の農道で、周囲は田圃や畑ばかり。
 長く歩いて、ようやく街に近付いた。
 30メートル先に数人の母子が見える。保育園のバスが来て、園児が降りて来たところを母親が迎えたのだ。
 ゆっくりと近付くと、園児服の女児がこっちを向いた。
 「きゃああああ」
 女児の叫びに、母子らが俺のことを見る。
 すると、全員の目が丸くなり、母子は大慌てでその場から逃げ出した。
 「きゃあ~」
 「誰か助けてえ」
 おいおい。人のことを見て「助けて」はないだろ。
 俺は別に凶悪犯じゃないし。

 そのまま道を進むと、道の片側に若者が十数人ほどたむろしていた。
 一見して分かる「ヤンチャ」な奴らだ。ま、不良ってこと。
 俺は気が短いから、相手が何かちょっかいを出す前に先に殴りつけてしまう。
 そんな時のために、いつも俺は警棒を持って歩いている。
 気に食わない奴がいたら、そいつが俺に気付く前に殴りつけるためだ。
 俺はオヤジジイだし、いつも下を向いて歩いているから、突然殴りつけて来るとは誰一人思わない。
 チンピラだろうと、ヤクザだろうと同じで、いきなり襲い掛かって、頭骸骨にヒビが入るくらい殴りつける。そいつは誰に殴られたかすら分からず、気が付いたら病院の中だ。
 警官だって同じだ。俺のことを一瞥でもしたら、いきなり殴る。
 時々、事件として報道されるが、俺は捕まらない。
 警官の時は再起不能になるくらい殴るからだ。
 生きていられるだけ有り難いと思え。

 俺が警棒を握り締めて、若者たちに近付くと、一人が俺のことに気付いた。
 「うわあ。化け物だ」
 皆が俺のことを見る。
 すると、やはり全員の目が丸くなった。
 「うわあ。気持ち悪い。助けて」
 「逃げろ」
 ばらばらと若者たちがその場から逃げ出す。

 しかし、一人はその場にしゃがんだままだった。
 腰が抜けたんだな。
 俺がそいつに近付くと、そいつはぶるぶると震えていた。
 そいつが俺に向かって言う。
 「あんた。大丈夫なのか?」
 「大丈夫?大丈夫ってどういう意味だ」
 「そんなのを担いで歩いていて、平気なのか」
 前の母親たちや若者が恐れたのは、俺のことではなかったらしい。
 「担いでるって、どういうことだよ」
 すると、その若者は俺の左肩を指差した。
 俺は自分の左側に目を遣るが、別段何もない。
 「別に何もないじゃないか」
 すると、若者は俺から少しでも離れようと、後ずさりした。
 「あんたには、そいつが見えないのか」

 この時、俺が正面に視線を戻すと、ちょうど商店にガラスに映る自分の姿が見えた。
 そこに映っていた俺の左肩には、女が乗っていた。
 三十歳くらいの女で、俺の首根っこに齧りつくようにしがみついている。
 「なるほど。どこかで拾って来たんだな」

 俺はどういうわけか、幽霊に好かれやすい。
 行く先々で、色んな奴を拾って来る。
 いつものことだが、溜め息が出る。
 ここで俺は若者に向き直った。
 「幽霊なんて、外国と同じだよ。相手の情報がなかなか入って来ないから、自分たちとはまるで違う化け物が住んでいるような錯覚に囚われる。だが、実態を知れば、そんなに恐ろしいものではないと分かるのさ」
 肉体が死に、霊だけの存在になると、心の状態が姿に現われる。
 ひとのかたちをした霊は、自我を抱えたままだから、執着心に囚われている。
 恨み妬みや憎しみがあるから幽霊になるわけだが、このために、外見が恐ろしいものに見えてしまうのだ。
 だが、見た目が恐ろしく、おどろおどろしいことを呟く割には、実害はほとんどない。
 恐怖心を持ち、相手の波長に合わせてしまわないようにすれば、全然平気だ。
 
 「だから、俺がどんなにおどろおどろしいヤツを連れていたって、何ひとつ驚くことなんかないんだよ」
 ところが、若者はそれでは納得せず、今度は俺の後ろを指差した。
 「でも、あんた。あんたが連れて歩いているのは、その女だけじゃないだろ」
 
 俺は若者の指の先を目で追って、後ろを振り向いた。
 すると、俺の後ろには、何百という亡者が付き従っていた。
 頭が1メートルくらいありそうな妖怪や、蜘蛛みたいに異様に手足が長い男。
 両目が眼窩から飛び出した女など、総てが異形の者たちだった。
 「何てこった。これじゃあ、まるで百鬼夜行じゃないか」
 改めて、列の後ろを望むと、何キロに及ぶのか分からないほど長い列が続いていた。

 「おいおい。俺はこんな奴らの先頭に立って歩いていたのか」
 こいつらを俺がどこかに連れてけってこと?
 「ひとつやふたつなら、手頃な神社やお寺に収めることが出来るだろうけれど、この数じゃあ無理だよな」
 俺はその場に立ちすくんで途方に暮れた。

 ここで覚醒。