



◎金地金相場が古銭価格を追い越すのはいつ?
国際的な政情不安により、金価格が上昇している。
割と最近まで1グラム当たり5千円程度だったのが、今は6千円に届く勢いである。
中東や朝鮮半島など、これから数年の間、国際情勢が不安定である見込みで、そうなると「どこまで金価格が上昇するか」は、今後も重要な話題のひとつになるだろう。
「有事の金」は定説で、いずれグラム8千円の時期が来るのではないか。
いずれにせよ、上がったり下がったりしながらも、中期的には現状より上昇するものと見込まれる。
このような情勢の下、金素材として古判金を見直してみる。
イ)金素地としての評価額と、ロ)骨董品としての価値を見比べた時、通常はイ)<ロ)の関係になることが普通である。しかし、前者に価格変動がある場合は、その関係が崩れる場合がある。
そこで、現状での実勢価格に関する情報を突き合わせ、どのような関係にあるかを確認してみる。
1)金地金としての価格
金地金相場は、毎日変動しているが、公示価格は常時公表されている。
ただし、グラム当たりでの評価額は、延べ棒(バー)や金貨など純度の高いものが想定されており、不純物が混じっている合金製品を持ち込む場合は、手数料を徴収されることが多い。また取引には、一定の基準量の枠があることが多い。
銀の場合は60キロ(または80キロ)と量を取りまとめる必要があり、これに満たない場合は、中間業者との取引となる。
金地金であれば、バーやコインは少量でも取り扱ってくれるが、装飾品など不純物を含む場合は状況が変わる。要するに、溶かして純度を高めるための手間賃という意味合いだろうが、最低でも500グラムくらいは取りまとめる必要がありそうだ。
しかし、どのように処分するかは、あくまで個人的事情であるから、実力は、ひとまず公示価格として置いてよいだろう。
金価格自体は、毎日変動するから、あくまで概算である。
また、実際に計測してみると、コンマ下2桁の台にはいくらかの誤差がある。
2)古貨幣としての価格
取引価格の一応の目安をネットオークションの落札結果から拾ってみた。
しかしネットでは考慮すべき点が多々ある。
オークショナーを経由しての競りの場合、事前に真贋の鑑定が施される。
専門誌など紙媒体の入札でも、座主による鑑定を経由した品でないと掲載されないし、落札後も一定期間の返品期間が設けられる。
かたやネットオークションでは、出品者が自ら出品するし、多くは返品を受け付けないシステムとなっている。これは落札があれば、自動的に座主により手数料の徴収が義務付けられるためである。返品があれば、出品者は「ただ手数料を払うだけ」になってしまうので、多く「返品不可」を条件とする。
とりあえずネットオークションで確実に真正品と思われる品を検索してみる。
気を付ける必要があるのは、ネットには真贋不明品や明らかに贋作・参考品と思しき品が多数出品されていることだ。
今はネット中心でコレクションを進めるコレクターが増えている。
その多くは、真正品が確実な相場通り十万円の品を買うことはないが、同じ型で5万円の出品があるとすぐに飛びつく。「真贋の怪しい」品であっても、あまり配慮しないのか、割と落札されている。
コイン相場は専門誌や入札誌での売買価格が双方にとって最も確実な値段(時の相場)になっているのだが、それをあえてネットに出品するのには、それなりの理由がある。
要するに、1)真贋が怪しい、1)当座の現金が必要だ、といったことである。
買う側は、1)安く買いたい、がネットオークションを漁る理由で、要するに「掘り出し物を手に入れたい」という射幸心による。だが、もちろん、そのことによって、贋作・参考品を入手する可能性がかなり高まる。
真贋鑑定のコツのようなものは、多く収集家間で口頭で伝えられることが多いから、ネットオークションをいくら眺めていても、そういう情報は得られない。
とりわけ、同じ銭種が大量に市場に出た時には注意が必要だ。
「どこそれの蔵から出ました」みたいな話が付いていることが多いのだが、参考品が売られる時の常套句がそれだから、実際にそういうことがあったかどうかを掘り下げて調べる必要がある。
ま、「元々どこから出た品か」を確認するのは、「収集上の常識」になる。
割と近年のことだが、某地方貨が市場に相当数出現したことがある。やはり地元の有名収集家がよく調べ上げており、「あれはどこそれの工場で作った品だ」と仲間には教えていた。
その後、当該品は真正品として受け入れられたのだが、数年後、「偽物」と断じた収集家が本物としてその品を売っていた。要するに売買で益が出るから、口を噤(つぐ)むことにしたわけだ。
市場に出始めた当初は、「腐食の順番が違う」という理由で鑑定は容易だったが、20年も経つと分かり難くなる。収集家の9割は「型分類」を志向しており、「どういう手順で作ったか」に着目する者は少ない。
ネットでは、割安感があれば売れるからなおさらである。
①~③ 元文一分金 N古銭相場 並10千円~美20千円
④ 文政二分金 N古銭相場 並30千円~極50千円
⑤ 文政一分金 N古銭相場 並13千円~美16千円
1万円より下の落札があるが、ほぼ参考品のようだ。参考品割合が高いと、評価全般が低くなる。
⑥ 天保一分金 N古銭相場 並20千円~美極30千円~未50千円
⑦~⑨ 天保二朱金 N古銭相場 並2千円~美3千円
➉~⑫ 貨幣司二分金 N古銭相場 銀台並3千円~金台美6千円
なお、蛇足かもしれないが、「表面の見栄え」が気になる人が多いようで、黄金色をした品の評価が割合高い。
しかし、いずれも金の含有率は半分程度以下の品が大半だから、本来の地金色は、概ね銀色になる。
判金類が「黄金色に輝く」のは、そう見えるように加工処理(色揚げ)を施しているからだ。これは金座で製造した当時でも行われていた技法だから、見た目の黄金色は単なる「印象操作」に過ぎない。
今でも「色揚げ」は割と簡単に出来るし、実際に行われてもいる。
3)頭の切り替えが必要
地金価格と古銭価格とを比較すると次のような結果となる。古銭相場は並品を基準とした。要するに状態によるプレミアムの無い価格である。
①~③ 元文一分金 地金13,000 > 古銭 10,000 ※
④ 草文二分金 地金19,000 < 古銭 30,000
⑤ 草文一分金 地金11,000 < 古銭 13,000
⑥ 天保一分金 地金 9,000 < 古銭 20,000
⑦~⑨ 天保二朱金 地金3,000 > 古銭 2,000 ※
➉~⑫ 貨幣司二分金 地金3,000~4,000 ≦ 古銭3,000~6,000
このうち、明らかに地金価格が古銭価格を上回るのは、「元文一分金」と「天保二朱金」の二つである。
資産形成の手段として「金貨」が優れている点は、「常に時代の貨幣価値に応じた値段で評価される」ことである。相場の上がり下がりはあるが、景気等の経済情勢に沿った動きをするので、実質的な価値が減るわけではない。
また持ち運びも便利であるから、収蔵場所に困らない。
おそらくこの後、一定期間は価格が上昇すると見込むのであれば、地金価格以下であれば、無条件で買い集めてよいのではないか。もちろん、下がることもあるが、投機的要素があるのは当たり前である。
逆に売り手の立場から言えば、地金価格より下の値段では売らないことだ。
ま、元文一分金の地金価値の高さはよく知られている。
金価格がグラム3千円から上昇の一途を辿り、5千円に近づいた時、地金価格は1万円を上回っていた。しかし、古銭の値段には、すぐには反映されないから、しばらくの間、店頭では8千円前後の値札が付いていた。状態によっては6千円の品も出ていたので、私は急いで、めぼしいコイン商を回ってみたのだが、同じことに気が付いた人がいたようで、既に割安の品は払底していた。
金の含有率も割合高いので、いわゆる「溶かし賃」の目減りも少ない。
この後は、金貨の取引は活発になっていくものと思われる。
古判金が地金型金貨と異なる点は、地金型金貨は金地金の価格変動を直接的に受けるが、古判金類は「古銭(あるいは骨董品)としての価値」をも併せ持つところである。
相互補完的に働かせれば、資産形成としての意味が拡大する。
ちなみに、買いに走るなら、なるべく現品を直接確認できる環境で買うとよい。
ネットオークションでは、真贋の鑑定は写真だけに頼る外はない。だが、店頭に行けば、多く比重計が置いてある。
この場合、古銭としての価値は二の次で、金の含有率が分かればそれでよい。
あるいは、信頼のおける知人収集家から譲ってもらうことだ。
さて、出版費用積み立てのため、今回掲示した品については、即売提供するものとした。提供価格は、他の整理品を併せ、一両日中に「古貨幣迷宮事件簿」にて公開する。