◎夢の話 第786夜 自宅待機
15日の午前四時に観た夢です。
「プルルルルルン」と電話が鳴った。
手を伸ばして受話器を取る。
「あ、I病院ですけど、Kさんですか」
「はい。そうです」
「早速ですが、今日、病棟の患者さんがコロナに感染していることが分かりました。Kさんから三つ目のベッドの患者さんです。そこで本日病棟にいらした患者さんにこうして電話でお知らせしています」
「え。そうなんですか」
俺は心臓の治療の際の薬物が原因で、腎臓がダメになった。
そこで週に三回ずつ病院に通い、透析治療を受けている。透析室は三密だから、もし感染者が出れば、あっという間に周囲が感染する。
あの東京の病院と同じことだ。
「ひとまず自宅待機ということで、外出は控えるようになさってください。この先のことは追ってご連絡します」
「分かりました」
夜の飲食店が三密で感染が広がりやすいのは知られているが、病院の中も同じこと。密閉された空間の中で、医師看護師がひっきりなしに回って歩く。おまけに、中にいるのは抵抗力の乏しい患者たちだ。
その次に危ないのは、「電車の中」だってことは容易に想像がつく。朝の電車では、傍の人と体が触れる間合いで立つ。
その次辺りが病院のロビーだ。ここも混雑する場所だし、加えて「既に具合が悪くなった人」ばかりが集まる。熱の高い人も咳をする人も山ほどいる。
受話器を置くと、俺はすぐさま息子に伝えた。
「病院で感染患者が出たそうだ。父さんも濃厚接触者だから、お前は父さんには近づかないようにしてくれ。父さんは、暫くお姉ちゃんたちの部屋に引き籠るから、お前は家の中を消毒して回れ。布製品は全部母さんに洗って貰え」
そのまま二階に上がり、娘たちの部屋に向かった。今はほとんど物置同然だから、座るスペースを作る必要があるためだ。
次女のベッドに座り、この先の段取りを考えた。
「おそらく四五日は経過観察になる。感染患者まで五メートルだったから、うつされた可能性は結構ある。もし体温が上がったら、普通の人と違い、重症化するまではたった二日だ。熱が上がった翌々日の夕方には、人工呼吸器が必要になる」
健康な人と対応が違うのは、変化が早く感染源になりそうな者は、割と早めにPCR検査が受けられることだ。軽微な症状では「到底済まない」ことが予め分かっている。
「でも、あの病院はどうするのだろ。大半が濃厚接触してるよな」
医師看護師は、感染患者に直接接しているから、おそらくこれも自宅待機になる。
病棟丸々なら、病棟もしくは病院が機能しなくなる。
「ま、そんなことは病院が考えることだ。俺は自分のことと、他人にうつさないことだけに専念する必要がある」
感染していれば、発症はまもなくで、かつ「あの世」もすぐ近くにある。
ひとまず体温でも測ることにし、薬箱を探した。
体温計が見つかったので、脇に挟みながら、息子のために紙にメモを残した。
もし入院することになった時の用心で、銀行の口座番号や暗証番号などだ。
予め家族内で暗号化してあるから、他人が見てもそれとは分かり難い。
書き終わった頃に「ピピッ」と体温計が鳴った。
「37.3度だ」
微熱があったのか。何やら塩梅がよくないぞ。
「俺は長年、病気で苦しめられたから、別段、驚くことも嘆き悲しむこともないよな」
仮に「あと二日」でも、これまでと変わりない。
ここで思いついた。
「今日くらいは、解熱剤でも飲んでいれば大丈夫だろ。そう言えば、久しく議事堂を見ていないから、今日は見物に行こうかな。議員会館も」
それであっという間に対策が進むだろ。人は自分のことになれば必死で働くからな。
医療費を抑制する必要があるだの何のかんのと言ったって、「ひと打ち三百万」の抗がん剤なんかは、あっという間に保険適用になった。そりゃそうだ。政治家も高級官僚も、いずれ癌になる可能性はかなりある。
誰ひとり「対応出来ない理由」を語らなくなるのだ。
ここで時計を見ると、まだ午後三時だった。
まだ充分間に合う。
ここで覚醒。
夢の中で時計を見ると、時刻は午後三時だったが、手前の日付は、「五月十七日」だった。
おいおい。「明後日」ってこと?
俺は正夢が割とあるから、さすがに「こういうのは止めてくれよ」と願った。
もちろん、「せめて五日にして」という流れだなのが。