日刊早坂ノボル新聞

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◎病棟日誌「悲喜交々」12/1 隔離される

病棟日誌「悲喜交々」12/1 隔離される

 火曜日に娘が発熱して仕事を休んだが、ひとまず通院先に事前連絡した。水曜は別の病院に行くはずだったが、同じ理由でキャンセルした。

 PCR検査を受けさせるために、市内の病院に電話を掛けたが、どこも「もう一杯です」との返事だ。この数日でまた急増しているらしい。簡易検査では陰性だったので、それらしい症状が出ないと診てもくれない。「かもしれん」は後回しで、「たぶんそう」くらいから相手にして貰える。

 幸い、娘の熱が下がったので、一日だけ休むと、また出勤して行った。職場では既に半数が感染したそうだから、仕事が回らなくなっているとのこと。

 

 木曜朝は当方の通院日だったが、まだこの時点では、状況が判明していなかったので、隔離措置になった。

 個室をあてがわれ、他の患者とは別の場所、別の時間に治療を受けることになった。

 「院内感染」から「患者が複数死亡」みたいな展開になったら、さすがに病院の存亡がかかって来る。

 個室ではさすが扱いが丁寧で、「腫物を触る扱い」になった。

 この日は当方が最後に病棟に入り、夕方、看護師たちが帰宅する頃と殆ど同じ頃に帰宅した。

 

 個室はやはり退屈だ。テレビもスマホも完全に飽きている。

 時々、看護師のユキコさんが見に来てくれるから、ほんの少し無駄話をするだけ。

 師長が気付き、当方の定位置からビデオデッキを運んでくれた。

 師長は「ここならイヤホンなしでも良いですよ」と言ったが、この日持参したDVDはコッテコテの「セックスとバイオレンス」系の映画だ。

 事故で脳にチタンプレートを入れた女がどうにかこうにかなって行く。日本にも『鉄男』てな映画があったが、それ系のトンデモ映画だ。

 冒頭から裸だらけだし、残虐シーンが続く。

 回りに死にかけのジジババがいるところで観る映画ではないから、さすがに途中で止めた。

 

 師長に「俺の母親は個室が嫌いだった」という話をすると、「患者さんははっきり二つに分かれる」そうだ。

 他の患者がいると「煩わしい」と思う人と、「寂しい」と感じる人の二通りだ。

 なぜ違うのかは簡単だ。個室を選ぶのは短期間で退院する見込みの患者で、かたや大部屋を好むのは長患いの患者になる。

 そうでなくともベッドの生活は退屈なのに、一人で考える時間が長くなったら、余計に気が滅入る。

 母も病院で過ごす時間が長かったから、カーテンを開けて、隣近所の患者たちと話をしていた。

 当方は偏屈なので、患者だけでなく誰とも付き合いたくないのだが、やはり個室でなく「六人部屋の左側の真ん中」が一番良いと思う。

 その位置なら、入り口から「お迎え」が入って来ても、周囲の「死にかけ」の方が先に視界に入る。

 そう言えば、実際に「お迎え」が前に立った時には、当方の向かい側には脳梗塞心筋梗塞を同時に患った患者がいた。

 翌日あたりには消えていたから、当方の代わりにそのジーサンを連れて行ったかもしれん。

 

 その時の体験がすっかりトラウマになり、正直、心の奥底で「お迎えの再来」を怖れながら生きている。

 体毛が逆立ち、血が逆流する感じは、あれを経験した者でないと分からないと思う。

 他の人と「あの世」にまつわる話をした時に、一瞬で分かるのは「あれを実際に見たかどうか」ということだ。

 占い師だろうが霊能者だろうが、実際に目の前で対面した者はいない。ほぼ全員が想像を語っている(第三者的に)。宗教家などはまるっきりの作り話で、自身の体験など塵ほども無い。

 聞く人が励まされ、元気づけられるような世界観やストーリーは、総て作り話だ。

 この世とあの世の決定的な違いは、「この世」では「世界の中に自分がいる」側面で己を把握できるのだが、「あの世」では「見聞きするもの総てが己の心象で形成される」ということだ。

 善と悪、神と悪魔の存在を感じるのは、それを願っているからそう見えるだけのこと。 

 ちょっとヒートアップしたのでここで鎮静化。

 

 明日の見えぬ患者にとっては、個室は「体も心も閉じ込める箱」になる。だからどうしても好きになれない。

 病人には、医師や看護師が天使に見える時がある。ま、苦しい時ということで、「戦場の母」だったか「ナイチンゲール症候群」だったかは忘れたが、男女とも素敵に見える。

 看護師さんに心の底からおべんちゃらを言えるのは、こういう時だ。

 ちなみに、お世辞はは現実に近かったり、表現を躊躇したら全然ダメで、「歯が浮いて、入れ歯が飛び出るくらい」の表現を使う必要がある。上っ面の言葉だけでもダメで、心底から信じて言うと、相手は悪い気はしない。

 ま、たまにタイガージェット・シンみたいに好意的な素振りりを見せる者でも殴り返すヤツもいる。当方もそう。なぜなら単に偏屈だから。

 おまけに、コロナに感染していないとはいえ、この数日は体調が悪い。

 

 画像は個室の風景。病棟には危ない患者が多いのでガラス張りになっている。