◎人に背中を向ける理由
人が人を裏切る理由は、損得勘定からではなく、何らかの「正義」を考えてのものではないかと思う。
逆に言えば、「正義」が無いと裏切れない。
検事長のK川氏は過去二年間、毎月数回ずつ麻雀をしていた。
60過ぎでその頻度だと、トシを取ってから覚えたか。
酒・博打・女は、トシを取ってから始めると、どうにもズブズブに抜けられないらしい。
そのくらいの年齢なら、もはや博打も燃えなくなるのが普通だろう。
脱線したが、場を提供し、麻雀に付き合っていた記者が、ある日突然、裏切り、週刊誌にリークした。
それも、きちんと根回しをして、証拠を揃える形で行っている。
これも、たぶん、「金目」では無いと思う。
おそらくこの記者はK川氏の言動を眺めていて、相当、腹に溜まるものがあった。
頭の良い人に共通する特徴は「情が薄い」ことだ。
冷酷で、かつ差別的な価値観を感じたことが、「正義」を行使する背景にあるのではないか。
何せ、この後、「総理が後ろ盾になる」との話が喧伝されている。
いわゆる「上級国民」的な意識を発散させていたのではないか。
他人を見下す態度を見せていたのではないか。
もちろん、以上はあくまで想像であり憶測だ。
当方が『鬼灯の城』で描く釜沢淡州は、情が厚く、家来や領民に対し押しなべて親切にするのだが、しかし、最後は腹心に裏切られる。
そこには「正義にもとる何か」が必要だ。
例えばこう。
淡州は誰彼構わず親切にする。うっかり内部事情を敵方に漏らした家来のことも「悪意が無かったから」と、あっさり赦してしまう。
それを見て、別の家来が「こんな人の良い者は決戦を生き抜くことは出来ぬ」と思うに至る。
きっと家来も領民も守れないだろう。
これが釜沢淡州の許を腹心が去って行く理由になる。