日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第950夜 父母と

◎夢の話 第950夜 父母と

 14日の午前五時に観た短い夢です。

 

 我に返ると、郷里の自室にいた。

 ここは三十五年前から倉庫になっている。

 だが、今は昔と変わらぬ様子。

 ここで、自分が夢の中にいることを悟った。

 「ははん。これは夢だ。俺は今、夢を観ているのだ」

 

 コンコンと扉を叩く音が聞こえ、部屋に人が入って来た。

 父と母だった。

 俺は先に母親の方に眼を遣った。母は二年以上前に亡くなっているからだ。

 「お袋。帰って来たのか」

 母はまだ五十歳台の頃のよう。それから六十歳頃までが、比較的持病の状態が軽く、すっきりしていた。

 すると、父が俺に言った。

 「お前はコイツのことが見えるのか。それなら、新宅さんのところの嫁さんと同じだな」

 新宅は祖父の本家だ。そこにも俺のような変わり者がいるらしい。

 

 しかし、この話の流れなら、父も母のことが「見えている」ということになる。

 一瞬、考えさせられたが、すぐにその理由が分かった。

 「なるほど。親父の認知症が進んで、魂が自由に動けるようになったということだ」

 知能が衰えた分、その統制が緩くなる。夢と現実の違いを認識し難くなる。

 今の父は常時、「夢の中にいる」心持ちだろう。

 

 「親父は今、施設のベッドで寝ているんだよ。そこから魂だけ抜け出て来たというわけだ。施設まで四五キロしかないから、ここに来るのは簡単だろ」

 「ははは。馬鹿を言ってろ」

 昔から父は「あの世も幽霊も存在しない」と言っていたっけな。

 

 母は幽霊で、父は幽体だが、家族だから会えたことの方が嬉しい。

 コロナのせいで、父にも面会出来ない状態だものな。

 

 ここで俺は母に声を掛けた。

 「お袋は変わりなかったか。苦しいことは無いのか」

 すると、母は生前と同じ答えを返して来た。

 「大丈夫。何ということもないよ」

 母はすっかり生きている時のままだった。

 

 「お前の方は大丈夫なのか」と父が訊く。

 「あの世がだいぶ近くなって、あっちの仲間が見えるようになって来た。他の人の後ろに誰が立っているかも分かるようになったから、今はなるべく人に会わぬようにしている。もはや隠遁生活だな」

 すると父は笑いながら従前どおりのことを言った。

「幽霊なんてものはいない。本当に怖ろしいのは幽霊ではなくて、生きている者の心のうちさ」

 そう言う父も俺の方も半分はあの世に足を踏み入れているわけだが、でも後段には同意する。

 「幽霊は正直で、悪いヤツは悪そうな顔をしている。だから分かりやすい。だが、生きているものはどれもこれもすました顔をしているが、心の内は一様に醜い」

 俺の言葉に今度は父が頷く。

 「違いない」

 父は散々、騙されたり盗まれたりしたから、ひとの醜さを味合わされている。

 

 ここで母が口を開く。

 「さあ、今日はせっかく帰って来たから、皆で墓参りに行くべ」

 コロナの影響で、墓参りにも行けていないから、丁度よかった。

 皆で部屋の入口の方に歩き始める。

 ここで覚醒。

 

 眼が覚めると、「自分がまた少しあの世に近づいている」ことを実感した。