日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第1K91夜 母来る

夢の話 第1K91夜 母来る

 六月二十五日の午前三時に観た夢です。

 

 我に返ると、郷里の実家の居間にいた。

 ソファに座って、コーヒーを飲んでいたようだ。

 すると、居間の扉を開けて人が入って来た。

 後ろを振り向くと、そこに居たのは母だった。

 「退屈したので遊びに来ました」

 「そりゃ良かった」

 「今はだいぶ良いよ。死んでからは病気の苦痛が無くなったもの」

 「そりゃ重ね重ねよかったね」

 母は三年前に亡くなったが、私との約束があるからあの世とこの世の狭間に留まっている。

 私は母の亡骸に向かって「もし俺が死んだら、お袋の手を引いて世界の色んな場所を見に連れて行く」と約束したのだ。

 「最初はマチュピチュだよな」

 母は半生をほとんど病院の中で過ごした。国内の観光地は幾らか訪れたことがあるけれど、外国には行ったことが無い。だが、母は自然や歴史の遺跡を眺めるのが好きだった。

 

 幽界はほとんどこの世と変わりない。

 同じような景色が広がっているが、総てはその当人によって主観的に構成される世界になる。

 その者が「見ようとするように見える」から、幽界にいる者(幽霊)はそれぞれが別の世界を観ている。接点が生じるのは、同じような感じ方をする者の間だけなので、その世界には「他に誰もいない」のと同じことだ。

 死ぬと、まず暗いトンネルを通るのだが、この段階ではまだ肉体と繋がっている。このトンネルの出口が心停止の区切りで、そこを出ると肉体から魂が離れ、幽界に入る。ひとが幽霊になるのはそこからだ。だが、トンネル自体はまだ暫くの間口を開けたままでいるので、元に戻ることが出来ぬわけでもない。出入り口に気が付いて、戻ろうとする意志があれば、生き返ることもあるようだ。

 

 母はニコニコと笑っている。

 その顔色の良さを見て、心底より嬉しく思った。

 

 ここに兄がやって来た。

 「本店に行き荷物を積むから手伝ってくれないか」

 「いいよ」

 本店とは、もう二十五年以上前に店を閉めた旧店舗だ。それ以後は倉庫になっている。

 兄のトラックで本店に行くと、他にも人が沢山来ており、段ボールやら豆俵を積み込んでいた。

 「こっちは先に運ぶから、後ので来て」

 兄がそう言い残して、先に出発する。

 別のトラックにも荷物が積み込まれたが、助手席にも積んだから乗る場所がない。

 仕方なく荷台に乗ることにした。

 箱の後ろのスペースに座ると、社員が俺の隣に子どもを乗せた。

 「息子」だ。

 どうやら俺は息子を連れて来ていたらしい。

 父親が育った家を見せるためだったようだ。

 「ちゃんと掴まっているんだぞ。揺れるからな」

 ここで車が出発。

 しばらく進むと、急に車が右に左に揺れ出した。

 「どうしたの?」と前に叫ぶ。

 すると運転手が答えた。

 「ここは片方が一車線で、もう片方が二車線なんですよ。左右どっちの車線かが分かりにくいし、どうせ車は来ないだろうとこちら側にはみ出して来る車がいるんです」

 「危ねえな。ひとつ間違うと正面衝突じゃないか」

 言っている端から車が左に大きく道を逸れた。

 

 「子どもがいるから気を付けてくれよ」

 ぐらありぐらりと車が揺れる。

 俺は息子を自分の前に座らせて、両脚で挟んで飛び出さぬようにした。

 「こんなことで息子を失うわけにはいかんからな」

 

 夢の途中だったが、現実の息子がトイレに起きたらしく、物音がして、ここで覚醒。

 まだ母と何の話もしていない。

 夢の中でも、「母がもう亡くなっており、あの世から蘇って来た」ことを承知していたから、あの世の諸々のことについて話が聞けたのに。残念だ。

 だが、私の夢はげ現実と必ず繋がっているから、これから暫くの間は、洗濯機がかちゃかちゃ音を立てると思う。母の没後に洗濯機を買い替えており、母は新しい機械の操作法を知らない。

 だが、夢の舞台は郷里の実家だったから、母がいるのは自分の部屋かもしれん。

 ならそっちの仏壇に供え物をして貰おうと思う。