日刊早坂ノボル新聞

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九戸戦始末記 北斗英雄伝 其の参 悪鬼の章

[この章のあらすじ]
三好平八は前年の登米寺池城で起こったことを夢に見てうなされる。
目覚めた平八は、疾風たちに自らの見た豊臣秀吉の姿を語るが、秀吉は手指が六本、黒目が左右二つずつの凶相の持ち主だった。
一行は畝村を出発し、夕方になり伊保内に到着する。とある寺の善根宿に一夜の宿を請うが、この寺は長興寺という名の寺だった。門外で剣の稽古をしていると、住職に五郎と呼ばれる男が現れる。疾風はこの五郎と弓を競い、自ら負けを認めた。この五郎が誰あろう九戸政実その人で、この寺は九戸家の菩提寺であった。・・・

[この章の登場人物]
○三好平八(この章の語り部:45歳) :葛西・大崎で木村家中が狼藉を働くのに嫌気が差し、一揆に乗じて落ち延びた中年の侍。「武術の腕はないが、料理の腕は確か」であるらしい。登米寺池城で、子ども殺しに加担したことから、罪悪感を抱えている。

常呂兵衛(33歳) :木村吉清が新規に召抱えた侍。秀吉・木村の威光を笠に着て悪行を重ね、葛西・大崎一揆を誘発した。

○疾風(厨川五右衛門:30歳くらい) :武芸の達人。盗人に襲われた市之助の姉を助けるために三戸に向かう。

○玉山小次郎(17歳) :日戸内膳配下の玉山重光(後の玉山常陸)の甥。内膳の密命により、疾風と共に三戸に向かう。

○市之助(葛西五郎:8歳) :葛西衆の縁者で、母を盗賊に殺されてしまう。何かと世話をしてくれる三好平八を慕うようになる。

○九戸左近将監政実(56歳) :二戸宮野城の城主。六尺(180cm)を優に越える長身の持ち主。豪胆で武芸に秀でている。

○薩天和尚 :九戸家の菩提寺・長興寺の住職。政実とは幼馴染である。

○姉帯兼興(20歳代後半) :政実の親族で弟・兼信とともに政実の随身を務めている。

○姉帯兼信(20歳代半ば) :兼興の弟。兄弟はいずれも「見上げるような長身」である。

○豊臣(羽柴)秀吉 : 染色体の異常で生まれつき手指が6本ずつ、黒目が左右二つずつある異形の天下人。残虐非道でまさに悪鬼そのものである。遺伝形質の欠損により子種を持たないが、人一倍好色である。

[ミニ解説]
時代小説では多く「人のよい猿」として描かれてきた豊臣秀吉は、東北の人々にとってみると凶悪そのものでまさに悪鬼となります。「小田原に参陣しない者は改易」、「従わぬ場合はなで斬り」を命じ、実際に各地で殺戮を展開しました。
戦国の戦を「国盗り」、すなわち将棋やゲームのように捉える小説が多かったのですが、実際には寒冷化により作物が実らなかったため、飢えを満たす目的の略奪が主だったのではないかと考えられます。
豊臣秀吉のイメージは早くから固まっていますが、「改革か、それとも除名か」と迫ったあの総理大臣がまさにピッタリです。痩せ型の風貌も似ています。もちろん役者ならってことですよ。

この章では「北斗英雄伝」の題名の由来が含まれています。(政実と疾風が天に向かい矢を射て、技を競ったことろからきています。)
物語の後段(6章以降)では天枢星(政実)を中心に、七人の武士の生き様、死に様が出てきますが、「北斗」はその伏線でもあります。