日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第117夜 カクテル

出張より帰り、仮眠を取った時に見た夢です。

気がつくと、プールサイドの白い椅子に座っています。
目の前には椅子と同じ白いテーブルがあり、その上にはカクテルが置かれていました。
明るいのは照明のせいで、ここはホテルの十数階にあるプールです。外側には夜の闇が広がっています。
「ここはどこだろ?」
振り返って、ビルの外を見やると、マーライオンが見えます。
シンガポールだ。ここ」

テーブルの向かい側には女性が座っており、どうやらそれは私の妻らしい風情です。
現実の妻ではなく、若い頃に付き合っていた女性でした。
夢の中の私は、たぶん50代半ばくらいですが、向かい側の女性はどうみても30歳くらいです。
「このひとと結婚してたんだな。ふうん」
かすかに現実の妻子のイメージが残像のように脳裏に残っており、今の自分に違和感があります。

現地の雑誌にしばらく眼を通していましたが、ふと顔を上げると、向かい側の女性が別の人に代わっています。
「ああ。このコは25歳くらいのときに付き合っていたひとだ」
おかしいな。でも、ま、いいか。

今は夜の8時過ぎでしょうか。夜風が心地よく、のんびりした気分です。
街の方からは、クラクションの音やら、雑踏の音がかすかに届いてきます。
「まだ人がたくさん歩いてるね」
そう呟くと、妻は「そうだわね」と返します。妻は先ほどから、ずっとマーライオンの先の海を向いたままです。
私はそんな妻の横顔を眺めていました。
「このひと。あの頃から全然変わらないなあ」

マイタイというカクテルを口に含み、視線を上げると、妻はまた別の女性に代わっていました。
「このひとも好きだったな」
好きだったな、はおかしいよな。現に目の前にいるわけだし。
あれからずっと一緒にいるのに、何を考えているのだろ。

目の前の女性が急に愛おしくなります。
「お前と一緒にいなかったら、オレはどうなっていたかわからない。オレの性格じゃあ、たぶん今頃はボロボロになっていることだろ」
女性は少し微笑みましたが、また海の方を眺め始めました。
コイツと結婚して良かったな。ありがとう。こんなオレと一緒にいてくれて。
私は自分勝手な性格で怒りっぽく、人間関係では散々失敗しています。そういう自分をなだめすかし、道を外れないように支えてくれたのは、このひとだよな。
このひとがいなかったら、どんなに寂しかったことか。さらには、どんなしくじりをしたことか。

もう一度、前を向くと、女性の姿がゆらゆらと揺れています。
頭のどこかで、「これって、現実なの?」という声が聞こえます。
そう思うと同時に、女性の姿が薄れて行き、急に不安な気持ちになりました。

ここで覚醒。
眼が醒めると、あの妻たちはいません。
夢かあ!

良かったなあ、夢で。
あの素敵なひとたちはいないけれど、現実の妻や子どもたちがいました。
夢の中では、私の理解者は年の離れた女性ただひとりだけでした。
改めて思い起こしてみると、あの頃に帰りたいという気持ちはなく、ただ「そういう時もあった」、「終わったことだなあ」と思うだけです。
現実の世界にいるのは、口やかましい妻と親の言うことを聞かぬ子どもたちですが、実際に身近にいてくれて本当に有り難いです。