疲れが溜まっていたのか、居間の床に腰を下ろした瞬間に、眠りに落ちてしまいました。
すぐに、夢の世界に入ります。
ドアを開くと、すぐ眼の前に大きな浴槽が見えます。
20人くらいは入れそうで、ちょうど銭湯サイズです。
左側には、壁面にシャワーの蛇口が並んでいました。これは10個くらい。
ここどこ?
何となく、学校のような気もしますし、古びた温泉施設のような気も・・・。
よく夢に出てくる、巨大な温泉ホテルかしら。
浴槽には湯が入ってはいないようで、この部屋は隅々まで乾いています。
シャワーも埃にまみれているので、使えないようですね。
せっかく汚れを落としに来たのに。
右腕を見ると、肩の下あたりに泥がつき、その下には擦過傷ができているようです。
この時、「うう」と声がしました。
前を向くと、ちょうど大浴槽の陰のあたりから聞こえます。
「助けてえ・・・」
間違いなく女の泣き声です。
思わず、「え」と発してしまいました。
その声が聞こえたのか、一瞬、浴槽の向こうが静まります。
「誰かいるの?お願い。助けて・・・」
もう一度、声が聞こえました。
いやな感じ。これって、生きてる人の声じゃないのでは。
背伸びをしても、浴槽の向こうは見えません。
周囲が急に暗くなります。
また出たか。
絶対に「コイツは幽霊だ」という確信があります。
死んだけど、あの世に行けずに固まっているわけです。
ああ、そう言えば、こないだ廊下に立たれた、あの「よその人に取り憑いた女」だ。
エライ迷惑ですね。
間に1人挟み、オレの方に乗り換えようとしているわけか。
ま、存在を知ることのできる人は、この世にわずかですので、すがりつきたくなる気持ちも分からないではありません。
でも、知ったことか。
執着心で凝り固まったがために、その場に留まっている幽霊なんぞ、この世には山ほどうようよしています。
そんな手合いにいちいち関わり合っていたら、こっちの人生があっという間に終わってしまいます。
お前のことは助けられない。
近寄るんじゃない。
そう念じながら、女(たぶん)に背中を向け、ドアを閉めました。
ここで覚醒。
あまり良い夢ではなく、しばらくの間は不快でした。