日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第192夜 悪霊の棲む壁

夕食後、テレビの前で寝入ってしまいました。
これはその時に見た悪夢です。

パッと目を覚ますと、がらんとした部屋の床で寝ていました。
「あ。ここは・・・」
かつて、私が会社を経営していた時の事務所の中でした。

半身を起こして、周りを見渡すと、調度類が何ひとつありません。
「となると、事務所を閉めた直後なんだろうな」
(今は夢の中にいるという自覚が少しあります。)
事務所の後片付けをして、疲れ果てて寝入ってしまったのでしょう。

台所や別の部屋には灯りが無く、今座っている事務室のほうにだけ、小さな灯りが点いていました。
「改めて見直すと、なんだかパッとしない事務所だったな」
奥のドアが半開きになっており、向こうの部屋の壁が見えています。
何気なく、その壁に近寄ってみると、その壁には黒い染みが出来ていました。
「あれ?いつから出来ていたんだろ。こんな染み。全然気づかなかった」
40センチ大の大きさですので、気づかないわけがありません。
本棚の後ろにでもなっていたのかな。

そのまま壁を眺めていると、すぐに異常な事態に気づきました。
壁の黒い染みが動いていたのです。
正確には、じりじりと大きくなっていたという表現のほうが適切です。
「何だか気持ち悪いな。この壁」
胃の底が冷たくなります。

嫌な感じが止まらないので、この事務所の外に出ることにしました。
元の事務室に戻り、玄関口に回ります。
ドアの所まで着き、ノブに手を掛けました。
すると、そこで手が動かなくなりました。
「う」
足が固まったまま、一歩も踏み出せなくなりました。

奥の部屋からは、ゴゴゴという物音が聞こえています。
「いかん。ここは悪縁の地だったか」
そう言えば、ここで事務所を構えていたのは、ほぼ十年間でしたが、何ひとつ良いことがありませんでした。事業がうまく回り始めたと思ったら、事務所荒らしに根こそぎ壊される。やたら人間関係のトラブルが頻発する。その繰り返しです。

この世に留まる悪霊の中で、最も性質の悪いのは、人の姿を取らず、ただ黒雲のように、渦のように、その地に留まって悪さをするものです。
何百何千という悪霊が凝り固まったものなので、ただの黒い塊に見えます。

普通の人なら、一発でとり殺されるか、あるいは、その場を逃げ出していたのでしょうが、私は生来、その方面は中途半端に敏感な方なので、何とかすり抜けてきたのでしょう。
でも、もちろん、早い段階でとっとと逃げ出せば、もっと早く、上手に難を避けることが出来ただろうと思います。

重い泥の中を這うように、ゆっくりと体を動かし、ようやくドアを開きました。
足を引きずるように、部屋の外に出て、階段を下ります。
すぐ階下は夫婦が経営する食堂ですが、その入り口が開いていましたので、間口に立ち声を掛けます。
「すいません。ここのビルのオーナーに連絡してください」
そう言おうとするのですが、声が出ません。

店の掃除をしていた夫婦が私の方を見ます。
「すい・・・」
私が声を出そうとした瞬間、後ろから首根っこをつかまれました。

私の前に立つ夫婦の目が丸くなります。
きっと、私が一瞬、宙に浮いたからでしょう。
もちろん、私の後ろには誰もいません。

私は後ろ向きにズルズルと引きずられ、階段を上がって行きます。
何かに掴まろうとしても、ここは階段ですので、取っ掛かりは何もありません。
あっという間に、事務所のドアの前まで戻ってきました。
「まずい」
部屋の中に引きずり込まれ、あの壁の黒い染みまで連れて行かれたら、おそらくその染みに吸収されてしまうでしょう。悪霊の仲間になるのです。
私はドアに手足を突っ張り、引かれないように力を籠めます。
「そうはいかねえぞ。こんちくしょう」
悪霊の重い力に負けじと、渾身の力を振り絞ります。

ここで覚醒。

何度も同じ夢を見させられてしまいます。
私は、あの十数年間の苦闘で、生命力をかなりすり減らしてしまいました。
今思えば、あれだけ災難が続けば、「ここは悪縁の地だ」と、もっと早く気づいても良さそうでした。
中途半端な霊感と、お祓いの知識を持っていたので、その都度、ぎりぎりのところですり抜けてきたのだろうと実感します。
何事も中途半端はいけません。

かつて、あまりに災難や凶事が続くので、ある霊感師の許を訪れたことがあります。
その先生は開口一番に、「あなたのような敏感な人は、若いうちから修行をしておかないと、無用な悪縁に悩まされることになる」と私に伝えました。
修行はしておらず、なるほど、いまだに過去の呪縛から解放されずにいます。

ところで、少し前に不動明王の夢を見て、近くのお不動さまにお参りしたのですが、帰宅したら、電気製品がいくつか止まっていました。
冷蔵庫とか、テレビ、電子レンジなどです。
「全部買い換えるのはしんどいぞ」と家人と相談をして、直後に予定していた三陸旅行から帰った後に、買うことにしたのです。
ところが、家人によると、私が出発した途端に、全部の電子製品が元通りに動き出したそうです。
「オトーサンは悪霊をぞろぞろ連れて歩いているんだよ。あんまり外で拾ってこないでね」と家人は言います。

全然嬉しくない話です。