日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第226夜 あの世への分かれ道

早朝になり、ようやく眠りに就けたのですが、すぐに変な夢を見ました。

通勤ラッシュの時間帯に、駅に入ろうとしました。
仕事に行くわけではなく、たまたまどこかに出かける用事が出来たのです。

駅の入り口に着くと、改札の真ん前の道に、ワゴン車が停まっていました。
何かの政治活動かしら?

駅に入ろうとすると、そのワゴン車からばらばらと人が降りてきて、私に駆け寄って来ます。
あっという間に、2人の若者に両腕を掴まれてしまいました。その回りにも5、6人が立ち私を囲んでいます。
まったく動けずにいると、目の前に中年のオヤジが現れました。
ひと昔ふた昔前の司会者、「玉置宏」さんにそっくりです。

「今朝は抽選で貴方が選ばれました。では会場に行ってもらいます」
抽選?会場?なんのこっちゃ。
引きずられるように、駅の外に出ました。
駅のロータリーの陰には、大型バスの改造車が停まっていました。
囚人を護送するときの周りを鉄板で覆ったヤツです。

私はそのバスの中に連れ込まれます。
ステップを上がると、バスの中は安手のスナックみたいな調度になっています。
当惑したまま佇んでいると、先ほどの玉置氏がマイクを差し出しました。
「何年代で行きます?」
「何年代?」
「歌はいつのが良いかって話です」
視線を奥に送ると、カラオケ用の機械が置いてありました。
「歌を歌えって言うわけ?」
「そう。国家試験ですので、軽くないけどね」
そう言えば、何日か前に、何か新しい法律が出来るって話を、妻がしていたな。
どんな法律だったかは憶えていないけど。
「歌はあまり好きではないけれど、どうしても歌わなくちゃあいけないの?」
「そうです。命に関わる試験なんだから、断る人はいませんよ」
命に関わる?

「どんな法律だっけ?よく知らないんだけど」
私の言葉に、玉置氏はあきれたような表情を返しました。
「ニュース見てないの?これから3つの曲のカラオケが流れますが、その曲を貴方が歌って、きちんと歌詞が合ってれば合格。間違えれば不合格。最初の曲の年代を70年代とか80年代とか10年単位で選ぶことができます。選んだ年代の問題に合格すると、次はその次の10年間の流行曲のどれかが出ます。最後の問題はその次の10年間だから、最初の年代の選び方はよく考えないとね」
説明が早口でよくわかりません。
「歌はあまり好きではないから、歌詞なんて知らないよ」
「拒否すると、その場で死刑だから断る人はいませんね。この車両の後ろには薬物注射の準備がしてあるしね。最初の問題を考える時間は1分だけど、それに合格すれば、次は3分、最後は5分間ほど考える時間が与えられます」
「死刑って、ちょっと・・・」
「でも大丈夫。歌詞は1番目だけわかれば良いんだから。全曲じゃない」
なんだよ、この理不尽さは。
まるで、最近の流行作家が書いたつまらん小説みたい。
(ま、作家の書く小説は、大概つまらない内容ですが。)

「では何年代にしますか?あと30秒です」
「もうカウントが始まっていたのかよ。じゃあ、とりあえず80年代」
私が答えると、ほとんど同時に前奏が始まりました。
おいおい。この速度で対応しなくちゃならないわけかよ。
流れた曲は・・・。助かった。「飾りじゃないのよ涙は」だ。
これならどうにか。

ワンコーラスをクリアすると、玉置氏がパチパチと手を叩く。
「おめでとうございます。これで貴方は3日間の『死刑にならずに済む権利』を手に入れました。じゃあ、次の挑戦をしますか?」
「もし今やめちゃうとどうなるの?」
「3日後に死刑になります。これは1度そう決めると、それ以後は取り消し不能ですから気を付けて」
「挑戦してしくじれば?」
「今日は既に1回成功しているから、1日だけ自由がもらえます。でも、次を成功すれば2週間の『死刑にならない権利』がもらえるし、3回目をクリアすれば『当分は死刑にならない権利』がもらえます。今まで挑戦しなかった方は1人もいませんよ。誰でも、自分が死ぬ時期を決められるのは嫌ですからね」
「逃げちゃったらどうなるの?」
「家族はもちろん、親戚の隅々まで全員死刑です。貴方が責任を取らないと、年齢を問わず、関係者が全員死刑になるのです。その人たちには何のいわれも無いのに、突然、死刑。そう考えると、貴方にははるかに大きなチャンスがある。ついてますね」
そっか。じゃあ、仕方ない。
「分かった。じゃあ、次行って。次は90年代?」
「はい。では」
すぐに前奏が始まった。

次の曲は・・・。また助かった。
宇多田ヒカルの日本デビュー曲だ。
街中であんだけ流れていれば、ナントカなるだろ。
1番の歌詞だけなら、それこそ自動的に出て来るでしょ。

2曲目もどうにかなった。
1番が終わると同時に、大量の汗とアドレナリンが噴出した。
そこに玉置氏が紙コップの冷茶を差し出して来た。
「すぐ3曲目に行きますか?それとも、5分休む?」
「休めるなら、もちろん、ひと息つくよな」
「休憩は持ち時間から控除されるけど」
「いいよそんなもん!」

「最後は2000年代だっけか」
「そうです。中年以降になると、今に近くなるほど記憶がおぼろげになる。次は難しいですよ。曲自体は誰でも聞いたことがあるけれど、歌詞を正確に言うのは難しいです」
「他の人はどうなってるんですか」
「五分五分、と言うより、三分七分で失敗するかな。命が懸ると、緊張して歌詞が出て来なくなる」
「やっぱり死刑に?」
「そう。安楽死だから苦しくないです。それにあの世があることはわかっているので、意外と平気らしいです」
「気休めでしょ」
「え、まあ」
私の方は玉置氏の話のひと言に耳を止めていた。
「あなたはさっき、あの世があることがわかったって言ったけど」
「ええ。死ぬと総てが終わり、なわけには当然ならなくて、あの世があります。最近、ちゃんとそっちの世界の情報も正確に把握できるようになってますしね」
ああ、そう言えば、あの世から何か情報をエネルギーを変えてこっちに送るシステムが出来たんだっけな。
「面白いですよね。まさか、死んであちら側に行くと、最初に出て来るのが閻魔大王だとは。呼び方は違っていたようですが、役割自体は閻魔大王に間違いない」
「そいつの前で黒白裁かれるってこと?」
「そう。もし質問にきちんと答えられなければ・・・」
「地獄!じゃあ、今の状況と全く同じだな」
「そうです。そう思えば平気でしょ。森羅万象はすべて試験で成り立っているのですよ」

なんだか釈然としないが、死んでも次があるなら、まあいいか。
「じゃあ、最後の問題に行きましょう。2000年代のあの曲です」
感傷に浸る猶予もなく、最後の試験が始まった。
前奏が流れる。
これは・・・。「部屋とYシャツと私」だ。
う。「お願いがあるのよ」の次は何だっけかあ。

ここで覚醒。